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【デイリーニュース】 vol.13 『ホワイト・サン』 デイヴィッド・バーカー(共同脚本、編集) Q&A
内戦後のネパールを生きる――対立と混沌、見えてくる確かな希望
『ホワイト・サン』共同脚本、編集のデイヴィッド・バーカー
長編コンペティション部門出品作『ホワイト・サン』は、1996年から11年にわたったネパール内戦を背景に、伝統や政治的信条、家族の絆、闘争の傷跡など、様々な思いや葛藤を抱えて生きる市井の人々を描いた骨太なドラマだ。
山の頂にある村の村長が亡くなり、息子チャンドラ(ダヤハン・ライ)が葬儀のためにカトマンズから村に戻ってくる。元ネパール人民解放軍兵士で今は共産党員のチャンドラは、保守的な王党派の村の人々や弟とことあるごとに衝突し、人手が足りずに遺体を川まで運ぶ葬送すらままならない。チャンドラは、町から荷物運びとしてついてきた孤児の少年、元妻の娘とともに近隣の村に協力を求めに行くのだが、事態は思わぬ方向に……。
上映後のQ&Aには、共同脚本・編集を担当したデイヴィッド・バーカーさんが登壇した。本作はネパール人の文化や複雑な感情が繊細に描かれた作品だが、バーカーさんはチリ在住のアメリカ人。ネパール出身のディーパック・ラウ二ヤール監督とは、どのような経緯で組むことになったのだろうか。
「監督の前作、『Highway』という低予算のクレイジーな作品で編集を担当したのがきっかけです。ニューヨークにあるダニー・グローヴァー(『リーサル・ウェポン』シリーズなどに出演している俳優)の制作会社が関わっていた関係で、私に声がかかったんです。その後、本作でも一緒に仕事をすることになりました。最初のアイデアは、車いすに乗った毛沢東主義派と王党派の二人の男の話でした。そこから長い時間をかけてストーリーを練っていったんです。はっきりと役割分担したわけではありませんが、私はネパールの外からの視点、ディーパック監督はネパール内部からの視点を持ち込みました」
チャンドラと元妻、弟との関係や、過去にどのようなことがあったのかを映画がはっきり明かすことはなく、物語の受け止め方は観客に大きくゆだねられている。
「できる限り情報は少なくしようとしたんです。ですから当初脚本にあった不必要な部分は、編集の段階でどんどんそぎ落としていきました」
登場する村人や子どもたちは、彼らが役を演じていることを忘れてしまうほどリアル。キャスティングはどのように行ったのだろうか。
「村人役は、俳優と実際の村の人とが入り混じって演じています。見ればすぐわかりますが、太っているのが俳優、痩せているのが本物の村人(笑)。ふたりの子どもたちは村の住人です。少年役の子は映画の役柄と境遇が似ていて、実際に父親を亡くし、母親に捨てられた孤児なんです。キャスティングには時間をかけて様々な村を回りました。彼をカトマンズに連れて行ってワークショップに参加させたところ、最初は恥ずかしがっていましたが、次第に自然に演じられるようになりました。唯一の問題は、撮影の日の朝、いつも彼を探さなければならなかったこと。どこで寝ているのかわからなかったんです(笑)」
タイトルの『ホワイト・サン』とは、ネパールの国旗に描かれている白い太陽を指しているのだそう。対立と混沌の厳しい時代を生きる人々を描きながら、確かな希望も感じさせてくれる作品だ。次回の上映とQ&Aは、7月19日(水)14時30分から多目的ホールで行われる。