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【インタビュー】『B/B』中濱宏介監督

 

 

 

――今回の入選作『B/B』は大阪芸術大学映像学科の卒業制作作品になります。やはり映画監督を目指して同大学へ進んだということでしょうか?

 

最終的には、そういう話になるのですが、そこにいき着くまでは紆余曲折あったといいますか(苦笑)。そもそも映画監督になることを目標に掲げて、しかるべき学科のある大学を目指して、ストレートに入って学んだというわけではないんですよ。

 

高校をドロップアウトしてしまって、それでも、映画監督になりたいという気持ちが変わりませんでした。ただ、同時に映画作りというものが、ひとりでできることの限度があることも知って、自分だけでは埒が明かない。じゃあ、大学できちんと勉強しようと思い立ちました。

 

そのとき、もう時期が押し迫っていて、映画学科がある大学で受けられるのが大阪芸術大学ぐらいだったんですよね。それで調べたら、僕は『ゴジラ』の映画が大好きなんですけど、学科長がそのシリーズを手掛けたことのある大森一樹監督で。『じゃあ、ここでいいか』と(苦笑)。だから、胸を張って『映画を目指して大阪芸大に進みました』と言えないところがあるんです。

 

――ただ、映画監督はずっと目指していた?

 

そうですね。僕の記憶はもうあやふやなんですけど、親に聞くと、幼稚園のころぐらいから、映画監督か漫画家になりたいと言っていたみたいです。

 

高校ぐらいでは本気で目指すようになりました。きっかけは周囲からベタと言われるんですけど、小学校6年生のときに観た『ダークナイト』。『こんな映画を作ることができるのか』と、大きな衝撃を受けて、映画の道に進みたいと思いました。

 

――で、大阪芸大に進んで、はじめて実際に作品を作り始めた。

 

そうですね。最初に短編を作ったんですけど、それは順調だったというか。教授たちが『まずは完成させることが重要』と言われて、僕は『そんなの当たり前じゃないか』と思ったんですけど、けっこう難儀で、周りには完成にこぎつけない人もいれば、完成はしたけど作品が思い通りにならないでめちゃくちゃになってしまった人もいました。ただ、僕はそれなりに納得できるものができたので最低ラインは超えられたのかなと思いました。

 

ただ、現実世界であまり人と関わりたくなくて、僕は映画の世界に逃げ込んでいたところがありました。それが、映画を実際に作るとなると多くの人間と向き合わないといけない。これは矛盾していると思いました(笑)。もちろんひとりで作ることは難しいとわかっていたから大学で学ぶことにしたんですけど、でも、こんなに密にコミュニケーションをとらないといけないのかと。

 

――その短編『The Boy Who Defecate With The MOBY-DICK』を作られて、翌年には中編『SORROWS』(18)を作られた?そのときはもう人間関係も構築されて、スタッフもできてと臨んだ?

 

いや、むしろ、この中編で人間関係が破綻してしまいました。もうめちゃくちゃに。実は、中編を作ったときのスタッフと今回の長編を作ったときのスタッフがほぼ違うんです。

 

大学の映像学科の場合、自分の周りもほとんどそうなんですけど、なんとなくスタッフが固まってきて、短編から中編、そして長編といったように監督志望の学生もほかの制作や撮影などほかの映画スタッフ志望の学生もある程度チームになってステップアップしていく。

 

でも、僕は恥ずかしいことにそれができなかった。何人かの中心メンバーは残ってくれたんですけど、そのほかは完全に壊れて、『B/B』を作るときは座組を組み直したんですよね。

 

正直なことを言うと、作ることは決まったけど、もしかしたら誰もスタッフが集まらなんじゃないか。それぐらい追い詰められていました。

 

それも自分の蒔いた種。中編が自分の中で、大きな失敗ではっきり言って撮りたいものが撮れなかったところがある。100ページぐらいの絵コンテを完璧に用意していたんですけど、いざはじめたら、問題が噴出して、変更に変更が重なってほぼ使わないようなことになってしまった。そこで、僕が『これは自分が作りたかった映画じゃない』というようなことを言ってしまったんですね。今となっては、僕に非があることは明確なんですけど。

 

ただ、それで僕としては人が離れるとは思ってなかったというか。僕は私情と仕事は別で、腹の中でその人のことを気に食わなくても、仕事は仕事としてきっちりやる。そういうドライな映画現場でいいと思っていた。衝突することがあっても、映画を作る上ではそれぞれが持ち場で自分の役割をきちんと果たすような。

 

でも、なんかほかをみていると、仲のいい友達同士で作ろうという意識が強い。僕はそれが逆に苦手だった。『友達だから一緒に』ではなくて、『同じ映画を志す者として』という意識で、割り切ってとりたい気持ちがあった。中編ではその点でうまくいかなくて、僕がそう発言したときやはり『友だちとしてどうなの』という人がどんどんでて、みんないなくなってしまった。

 

――では、スタッフを集めるの相当大変だったのでは?

 

でも、幸運にも、僕がそのようなことになったことが学内に広まったことが最終的に吉と出たんです。

僕のそうしたある種、ドライなスタンスということ知って、中編を観てくれた人の中で、『一緒にやってもいいですよ』という人が出てきてくれて。それでなんとかスタッフを集めることができました。

 

――そうして作られた『B/B』は自身で脚本も手掛けられていますが、ストーリーはひと言でいえばサスペンス。解離性同一性障害の女子高生が主人公になります。まず、サスペンスではよく取り上げられる題材ですが、一般的には多重人格障害として知られる解離性同一性障害について興味をもったきっかけはあったのでしょうか?

 

実は、多重人格の方に実際にお会いしたんです。というのも、さきほど触れた中編の時に、ほんとうにいろいろあったので、体を壊してしまって内臓がボロボロでしばらく通院をしていました。

 

そのとき、僕が『こんなことがあって僕は病んだんだ』と言ったら、医者に『もっと大変な人は山ほどいるよ』と言われて、こっちも気が収まらず反論していっちゃたんです。『そういう慰め方どうかと思う』と。すると、『実際に会ってみればいいよ』と言われて、多重人格の方と会うことになった。

 

最初は疑いがありました。ひとりでいくつも人格を宿しているなんて『ほんとうなの』と。

 

それで何人も会ったんですけど、話しているうちにほんとうに変わる。驚きました。それでこれは病気で大変な思いをされている解離性同一性障害の方に対して、不謹慎な言い方になってしまうかもしれないんですけど、『すごいなこの人たち』と感じて、なにか自分の中では超人に思えたんですよね。病気なのかもしれないけど、なにか人間としての進化のようにも思えた。その驚きをどうにか映画で表現したい。それが今回のプロットの始まりでした。

 

――作品は、多重人格者の紗凪が、ある惨殺事件の被害者の息子、士郎と交流があったことから、担当医の女医の立ち合いのもと、刑事から取り調べを受けることになる。そこで彼女の中に存在する12人の人格が登場。それぞれがそれぞれの視点から士郎とのことを回想し、少しずつ、事件の全容が明らかになっていきます。

 

実は、サスペンス形式になったのは結果論だと思います。実は、僕の場合、だいたいそうなんですけど、ふとショットが思い浮かぶことがあるんです。だいたい、トイレでのことなんですけど(笑)。

 

それでラストに関わることなのであまり詳しく明かせないのですが、紗凪と、彼女の中にある人格が居並ぶ、あのショットが脚本を書く前段階、いろいろと考えていたときにふと思い浮かびました。

 

そこから逆算してストーリーを作っていきました。意識したのは、人間のあやふやさといいますか。多重人格の紗凪は、本人で語る場面もあれば別の人格となって話すこともある。それぞれ言い分が違う。彼女の語りは信用できることところもあれば、まったく信用できないところもある。彼女と対する人間はそれが本当なのか嘘なのか、見分けるのがひじょうに難しい。彼女を語り部にすることで、どこからがほんとうでどこから嘘なのか、観ている側もこの認識が正しいのか騙されているのか。この発言は、このこととつながっているとか、このシーンはさっきのここの伏線になっているとか、ストーリーにも映画の構成にも謎があるといいますか、いろいろな解釈ができて紐解くことができる作品を目指しました。

 

――そうしたある種の謎解きのおもしろさがある一方で、ストーリーには担当大臣の汚職による東京オリンピック中止など、社会的な問題を背景に忍ばせています。その意図は?

 

東京オリンピック中止については、『AKIRA』へのオマージュだったりするのですが、自分の中のテーマのひとつとして、取り返しのつかないことが起きてしまって、そのことを挽回できない。これは紗凪が体現することになるんですけど、みんなが願っていたことが最悪な形になってしまう。このことを前にしたとき、人はどうなるのかを考えてみたいところがありました。

 

――過去のトラウマと虐待についても言及している部分があります。

 

紗凪が思い出したくない過去のトラウマを美しく撮っているんですけど、それには理由があって。思い出したくないことを美化することによって精神を安定させるというか。そうでもしないと生きていけないのではないか。そういう考えから、トラウマのシーンをある種の美しい記憶として撮ったところがあります。

ただ、これで解決できるわけではない。思い出したくないことは自分にもあって、いまだに忘れられない。周囲は『楽しいことすればやがて忘れるよ』というようなことを言うんですけど、僕は絶対に忘れられないし、これからもその記憶を反復し続けると思う。その苦しさを物語に盛り込みたい気持ちがありました。

 

――ここまであげた題材を総合すると、ひじょうにシリアスなストーリーを想像させるのですが、実は違って。一筋縄ではいかない多重人格の紗凪と、担当医と刑事の言葉の応酬ともいうべきトーク・バトルを繰り広げる。それがひじょうにユーモアをはらむ要素になっています。

 

当初、スタッフや役者に説明するとき、『最初っからずっとしゃべっている映画です』と告げていました。

 

正直なことを言うと、セリフに頼らない表現が好きです。特にセリフがあるわけではないけど、その人物の気持ちが伝わってくるような。たとえば『マッドマックス 怒りのデス・ロード』とか、ずっとアクションの連続。でも、マックスの心の軌跡が伝わってくる。

 

本来はこういう映画が好きなんですけど、逆にすべてを言葉にしてしまったらどうなるのかなと思ってしまったんですよね(笑)。映像のアクションをセリフのアクションに置き換えるというか。言葉を聞いていて楽しくなって、観続けてしまうような感覚にさせることはできないかなと。

 

――周りのスタッフや役者さんの反応は?

 

脚本の厚みが異常だったので、みんなから『何時間の映画になるんですか』と聞かれました。それに対して、僕は『早口でやるので1時間半に収まります』と。

 

いや、脚本が完成したとき、一度自分でやってみたら80分でいけたので、プロの役者だったら大丈夫だろうと踏んで、そう言っていたんですけどね。

 

――なぜ早口に?極論を言うと、ここでの会話の意味を考えなくてもいいというぐらいの早口です(笑)。

 

これもさきほど言った『いろいろな解釈をもたせる』ことにつながるんですけど、いま言ったことはあそこにつながったとか、この話は実は何の意味もなしていないんだなとか、一度では解明できない形にしたかったんです。見るたびに、発見がある。そういうストーリーにしたかった。

 

ただ、たぶん、スタッフもキャストもみんな『こいつ何考えているんだ?』と思ったと思います。『もっと早口にしてください』とか言うたびに、そう顔に出ていましたから(笑)

 

――役者さんたちの反応はいかがでしたか?

 

みなさんが想定してきた早口より、僕の求めていた早口の方が速かった。だから、『もっと』となったときは、疑心暗鬼になっていたと思います。『ほんとうにこれでいいのか』と。

 

『ほんとうにいいんですか』と確認とられましたね。

 

極論を言うと、感情をのせるのは最後の方のシーンぐらいで、そこまではリズムとして気持ちよく聴こえるようにやってほしいと思っていました。『なにをいっているかわからないけど耳障りがいい』といったように感じられればいいと。

 

みなさん『こんな現場初めてでした』と言ってましたけど、戸惑ったでしょうね。

 

――そのキャストでいうと主人公の紗凪はカレンさん。彼女は昨年の本映画祭でSKIPシティアワードを受賞した『ミは未来のミ』でヒロインを演じていました。ここでは目まぐるしく人格が変わる役どころを演じ切っています。

 

実は、オーディションをしていたんですけど、主人公の紗凪だけ、最後まで決まらなかったんです。求めていたのは、ひと言で表すなら、クールビューティ。一発でビジュアルで目に残る人がいいなと思っていたんですけど、なかなかみつからない。

 

それで、今回のSKIPシティで入選している磯部鉄平監督の『コーンフレーク』の主演を務めているGONさんと、僕は中編で一度一緒にやっていてご飯をたべることになったとき、相談したんです。『ミッション:インポッシブル/ローグ・ネイション』のレベッカ・ファーガソンみたいな感じ、『攻殻機動隊』の草薙素子をちょっと柔らかくした感じの人を探していると(笑)

 

そうしたら何人か候補を挙げてくれて、カレンさんにたどり着いた。

 

――それほどこだわっていたわけですが、望み通りになりましたか?

 

そうですね。望み通りというかいい意味でいい方に変化したといいますか。クールビューティを求めていたわけですけど、本人にお会いして、実際に撮影が始まると、すごくチャーミングに映るところがある。茶目っ気がある。これを活かしたいと思ったんですよね。

 

最初の脚本でのイメージとしては真顔で冗談を言う感じ。そうだと受ける側も真顔で受けて、だじろぐ感じになってしまうと思うんですよね。でも、毒づくんだけど、愛嬌がある感じにすると、ちょっと受けても楽になる。会話としてもすこしポップになる。それをカレンさんなら可能にしてくれると思って、キャラクターを彼女に寄せたところがあります。

 

――ご自身にとって、サスペンス映画、それともトラウマ映画、それとも別なのか、どのジャンルの映画と考えているんですか?

 

誰かが『優れた映画はひと言で説明できるんだ』というようなことを言っていたことを記憶しているのですが、ならば僕は『ひと言で説明しづらい映画にしたいな』と思って作ったところがあります。

 

SKIPシティの提出シートに映画のジャンルを書く欄があったんですけど、僕は悩んだ末に『コメディ』として出したんですよね。自分としては、サスペンス、コメディ、青春ドラマなどがごちゃまぜになった映画を作った感覚があります。

 

――今回の入選をどう受け止めていますか?

 

学生映画で自主映画ですから、誰が待ってくれているわけでもない。それが、こういう形で選んでいただいて上映する機会をいただけたことはほんとうにうれしいです。

 

今回はオンラインでの開催でスクリーンでの上映ではないのは残念なのですが、自分としてはうれしいところもあって。というのも、さきほども言ったように、何回も繰り返してみてもらえたらうれしい。オンラインならば一定期間、何度も見ることが可能ですから、ある意味、僕の願いが叶ったなと思っています。どんなリアクションがあるのか楽しみです。

 

文=水上賢治

『B/B』作品詳細

 


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