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【デイリーニュース】Vol.20 特集「SKIPシティ同窓会」『Winny』松本優作監督トークイベント
ライフワークとして届いてほしい人に届ける作品を
『Winny』松本優作監督
2017年に自主映画『Noise ノイズ』が長編部門にノミネートされた松本優作監督の最新作『Winny』が7月20日(木)、映画祭20周年記念特集「SKIPシティ同窓会」の一本として映像ホールで上映された。
『Noise ノイズ』は、秋葉原無差別殺傷事件から8年後を舞台に、事件で母親を殺された地下アイドル、父親との関係がうまくいっていない女子高生らの悩みや葛藤を描く群像劇。事件が起きた当時、松本監督は中学生だったが「その頃、仲が良かった友だちが自殺。頭の中にずっと残っている状況のまま社会に出ましたが、2カ月くらいで会社を辞めてしまいました。自分が何者か、居場所が分からなくなった時に事件や友だちのことを思い出して。何も消化できていないことに気づき、一本作らなければ前に進めないと思ったんです」と一念発起。クラウドファンディングや協賛金などで製作費を捻出して撮り上げた。
SKIPシティ国際Dシネマ映画祭が初の国際映画祭への参加となり、その後、モントリオール世界映画祭など海外の映画祭にも出品された。米ニューヨーク、サンフランシスコでは単館系ながら劇場公開もされ、監督として一歩を踏み出し「SKIPシティで受賞できなかったことは凄く悔しかったけれど、大きな励みになり前に進むきっかけになりました」と笑顔で振り返った。
22年『ぜんぶ、ぼくのせい』を経て、長編3作目となったのが『Winny』。02年にファイル共有ソフト「Winny」を開発した金子勇が、違法コピーなどが横行し開発者として著作権法違反ほう助容疑で逮捕された実際の事件をベースに、7年にわたる裁判で無罪を勝ち取るまでが描かれる。
「印刷すると天井に達するくらい」という膨大な裁判資料を読み精査した上で、「作家として何を描くか。裁判に勝って良かったというカタルシスで意味があるのか。一審で負けたことを打ち出すことが重要」という結論に到達。加えて、「警察も悪いわけではなく、組織で生きることの難しさなど多角的な視点が必要」と、こちらも実際に起きた愛媛県警の裏金問題のエピソードを加え、撮影の岸建太朗とともに脚本を練り上げた。
撮影に際しても、本物の弁護士らに集まってもらって実際の資料を使った模擬裁判を行い、主演の東出昌大や三浦貴大らに参加してもらうなど、リアリズムを徹底して追求。これまでも社会的な作品が多いが、「自分も社会に溶け込めなかったタイプなので、マスに向けてというよりは、自分のように大変な目に遭っている人や届いてほしい人に届く作品をライフワークとしてやっていきたい。一方で、人に知ってもらう作品も作らないといけないと思っている」と意欲を語った。
昨年、30代に突入したばかりだが「やっとスタートラインに足を乗せられたくらい。これからの10年で次のステップに上がれるよう頑張っていきたい。視野を広げて世界に届く作品を作っていきたい」という松本監督。目標は大きくスティーヴン・スピルバーグ監督。「『ジュラシック・パーク』も撮れば、『シンドラーのリスト』も撮る。そういう人になるのが夢です」と未来を見据えた。
特集「SKIPシティ同窓会」としては、このあとも7月21日(金)11時から多目的ホールで『ハリヨの夏』が2006年長編部門にノミネートされた中村真夕監督の『ワタシの中の彼女』が、7月21日(金)13時50分から映像ホールで『ロマンス・ロード』が2013年長編部門SKIPシティアワードを受賞したまつむらしんご監督の『あつい胸さわぎ』が、7月21日(金)17時30分から多目的ホールで『チチを撮りに』が2012年長編部門監督賞とSKIPシティアワードを受賞した中野量太監督の『浅田家!』が上映され、ゲストによるトークショーが予定されている。