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7月16日(月)
『沈黙の歌』チェン・ジュオ監督、製作総指揮ライ・イファン氏 Q&A
「現代中国がかかえる様々な問題を描いている」

 

  (右から)製作総指揮を担当したライ・イファン氏とチェン・ジュオ監督


 長編コンペティション部門出品作『沈黙の歌』は、中国・湖南省の地方都市を舞台に、耳が聞こえない少女ジンと彼女の叔父、彼女を愛せない父ハオヤン、ハオヤンの愛人メイが繰り広げる孤独の物語。両親の離婚後、母の実家に預けられていたジンは、唯一心を開いていた叔父と一線を越えてしまう。次にハオヤンが一時的にジンを預かるが、母親との不仲で家を飛び出していたメイが転がり込んだことで、3人の奇妙な同居生活がスタートする。


 チェン・ジュオ監督は映画の舞台となった湖南省の出身。2003年に中国の名門美術大学である中央美術学院を卒業し、大学院ではデジタルビジュアルを学んだ。2010年に他の講師らと「北京老虎数字傳媒有限公司」を設立し、第一作となる本作を制作した。本作は香港国際映画祭や上海映画祭などでも高い評価を得ている。


――本作では登場人物が煙草を吸うシーンが多い。ここに意図はあるのか。また、ジンの箸の持ち方はあまり美しくない点について。


 チェン・ジュオ監督「この映画に出演しているプロの俳優は、ハオヤン役のリ・チャンのみだ。他はすべて素人で、作中に自分自身の生活習慣を持ち込んでいる。メイ役の彼女はもともとヘビースモーカーで、煙草を吸う事で心の苦しみを外に出しているのではないだろうか。また、ジンの箸の持ち方がひどい点も、演じている彼女自身が正しい持ち方を知らない。これもまた、伝統に対する意識が弱いことを示しており、現代中国が抱える問題のひとつだ」


――複雑な設定を描ききっている作品だが、原作があるのか?


 チェン・ジュオ監督「すべて自分で作り出している。脚本を作り始めた当初はメイを軸にしていたが、9カ月かけて書き上げるあいだにジンの存在も大切になってきた。このため最終的には、2人の物語として仕上げている。この2人の女性は、作品タイトルのようにあまり話さない。特にジンがほとんど聞こえず話せない。このジンの姿は、実のところ我々自身なのではないかとも思う。現代社会の中で、我々は様々なことが聞こえず話せなくなっているのではないだろうか」


――中国での製作と海外での上映に困難はなかったか。


 ライ・イファン氏「我々はラッキーだ。中国では映画の検閲制度があり、大半の自主制作映画は通過できない。しかし我々もこの作品で工夫をしており、実は日本で上映するものは完全版(117分)だが、中国では106分の編集バージョンにしている。またハオヤンは警察官だが、通常は警察官に対するマイナスイメージが描かれた映画は検閲が通らない。しかしこの作品は彼の家族に関する話であり、最後には一筋の光が描かれているので問題はなかった」


――中国での実際の評判は?


 チェン・ジュオ監督「現在は北京の芸術系映画館で上映しているが、これまでの自主制作の映画にはない丁寧な作りと素直さが評価されている。商業系映画館で公開される今の中国映画は表向けの華やかさばかりで、こういった正直さを持つ作品は少なくなっていると言われている」


――この映画に込められている現代中国の問題点とは?


 チェン・ジュオ監督 「私はこの映画で、私が中国に対して抱いている危惧や悲しみを描いている。経済成長により生じたひずみで、人と人のコミュニケーションは悪くなっている。また、男を尊重して女を軽視する風潮も深刻なものとして描いている。これにより現在の中国では男性の方が10%以上多く、この問題はますます深まるのではないかと思っている。最も描きたかったものは、人間としての責任だ。この作品では家庭の中で父親がその責任を追わなかったために、一連の悲劇が発生する」


――作中に登場する長江が象徴するものとは?


  チェン・ジュオ監督「長江を流れる水は、人と人を隔離する手段ととらえている。またそこに浮かぶ船は、さらに隔離された世界のひとつだ。ハオヤンの家にある水槽は人と人を隔離する手段となり、金魚はジンそのもの。はなせない弱い存在としてのシンボルになっている」


 『沈黙の歌』は、20日(金)11:00から多目的ホールでも上映される。

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