7月16日(月)
『ワイルド・ビル』デクスター・フレッチャー監督 Q&A
「父と息子の関係にスポットあてた物語には私自身の経験も投影されています」
デクスター・フレッチャー監督
長編コンペティション部門出品作『ワイルド・ビル』は、かつて「ワイルド・ビル」と呼ばれた元ワルのビルと息子たちを軸に描く人間ドラマ。刑務所から仮出所して自宅へ戻ったビルは、息子たちが母親に捨てられた事実を知る。父親の役目を果たそうと奮闘を始めるビルだが、昔のワル仲間は元の道に引きずり込もうと画策。そこに長男の恋愛問題やビルに惹かれる娼婦のロキシーなどがからんで……?
40年以上にわたり役者として活躍しているデクスター・フレッチャー氏は、これまで80本以上の映画に出演したキャリアを誇っている。子役としてデビューした『ダウンタウン物語』(1976)や『エレファント・マン』(1980)、『カラヴァッジオ』(1986)、『ロック、ストック&トゥー・スモーキング・バレルズ』(1998)、『レイヤー・ケーキ』(2004)などで日本にも多くのファンを持つ俳優として有名だ。
「そろそろ俳優以外の可能性を模索したかった」として手がけた最初の監督作『ワイルド・ビル』は、ロンドンのスラム街イーストエンドを舞台に、元ワルの「ワイルド・ビル」が父親としての役目を果たそうと奮起する姿を軽快なテンポで描いている。
「また、どうしてもこのストーリーを観客に伝えたかったんです。そこで長く続いていたTVドラマシリーズが一段落したタイミングで、脚本の準備に取り掛かりました」
スラム街の貧困も関連するシビアなテーマだが、個性豊かな役者陣が作り出すリアリティがお涙頂戴的なセンチメンタリズムを逆に排除している。
「主人公たちの世界をすぐに信じてもらうためには、リアルなテイストで描くことが必要だと考えました。観客に信じてもらえなければ、ストーリーの持つインパクトが乏しくなってしまうからです」
「イカれた男」とも呼ばれた元ワルは、家族の絆を取り戻すことができるのか? 父親の自覚に目覚めたビルは、不器用だが実直なキャラクターとして描かれている。愛情表現はヘタでも家族のためにカラダを張るという部分には、日本の伝統的な父親像に通じるものがあるだろう。
「残念ながら、私の父はこの映画の完成前に他界しました。作品の最後で『父に捧げる』としているのは、これが理由です。父と息子の関係にスポットを当てた物語は偶然ですが、そこには私自身の経験が多く投影されているんですよ。ただ、私の父は刑務所に入っていませんけどね(笑)」
さらに、初の監督業に際しては役者としての経験も投影されているという。
「13歳でデイヴィッド・リンチ監督と仕事(『エレファント・マン』)しましたが、彼は本当に情熱的で熱心な監督です。若いときにそういうエネルギーを経験したことから、今回の撮影ではそれを持続させたいと思いました。私自身役者として、良い監督と組んだときは役柄に没頭することができますが、悪い監督の場合はいろいろと考えてしまいます。そこで監督は、自身のビジョンを持っていなければなりません。現場のスタッフ全員を導くためにも、情熱を持ってビジョンと向かい合っていることが良い監督の条件と言えるでしょう」
『ワイルド・ビル』は、20日(金)17:30から多目的ホールでも上映する。