7月18日(水)
『レストレーション~修復~』ヨシ・マドモニ監督 Q&A
「歳を取れば取るほど、私たちは新しい決断を下すことが難しくなる」
ヨシ・マドモニ監督
長編コンペティション部門への出品作『レストレーション~修復~』は、頑固な家具修復職人ヤコブとその息子ノア、工房に勤める青年アントンらが織りなす人間模様を描いた作品だ。サンダンス映画祭の脚本賞、カルロヴィ・ヴァリ国際映画祭とエルサレム映画祭の最優秀作品賞を受賞するなど、すでに高い評価を受けている。
イスラエルの首都・テルアビブ。家を飛び出していた青年アントンは、骨董家具の修復工房に職を得る。彼を雇った頑固な職人ヤコブは、共同経営者マックスの急死により工房の経営が危機に瀕していた事実を知る。融資を求めて奔走するヤコブだが、「工房の土地にアパートを建てるべきだ」とする息子ノアとは意見が合わず、「工房の隅に眠っている壊れたピアノが借金を帳消しにできるお宝だ」というアントンの言葉にも取り合わない。
アントンの存在、ヤコブとノアの父子関係、マックスにまつわるエピソードなど多様な軸を織り交ぜた巧みな脚本は、観る者を飽きさせない。とはいえ、そこに過剰な演出は一切なく、微妙にもつれた人間関係の糸を深く静かに描き出す様は、非常に文学的でもある。
「この作品では、生物学上の息子と精神上の息子における三角関係のようなものを描くと同時に、“父とは何か?”という模索も加えています。自分の手による脚本ではないという点では、非常に難しい作品でした。脚本を自分のものにするため、脚本家と1年近くやりとりをしています。最初のバージョンでは工房をどうするかという内容でしたが、進む内に父と息子にフォーカスする内容に変化しています」
舞台となるテルアビブの街は、古い町並みが取り壊されるなど“古い物が去りゆく”状態にあるという。この部分もまた作品のテーマと微妙に重なる部分があり、「古き良きテルアビブに捧げるレクイエム」というニュアンスも作中には存在している。
「古い物から痛みを伴って新しいものに変わっていく。それは時に暴力的であったり無理やりであったりもしますが、私たちの人生とはそういうものですよね」
そこに重なるもうひとつのモチーフは、古いピアノの“修復”。ヤコブの人生や新たに導きだされた決断を示す存在として、まるで名優のような存在感を放っている。
「歳を取れば取るほど、私たちは新しい決断を下すことが難しくなります。ヤコブのように40年間同じことをしてきた人物でも、何か別のことを新しく始められるという事実を、あのピアノは示しているのです」
また、膠着していたヤコブとノア、またノアと妻の関係を揺らす若者アントンも、不思議な印象を残す人物だ
「ヤコブとノアという名前はイスラエルでは非常にポピュラーなもので、地元で生まれ育った人物だということがわかります。一方でアントンという名前は地元の人ではない、どこか外国から来た人の名前という意図でつけられています。どこかからやって来て、状況をかき回して去って行く人物は、ひとつの映画ジャンルとして存在するものです。登場人物全員に何らかの影響を与える存在として、悪魔のようだとも、天使のようだとも言えるかもしれませんね」
さまざまな想いが積み重なった“過去”と、痛みを伴いながらも訪れる“未来”。消えゆく過去へのノスタルジーとは、いつの時代、どの国や地域でも等しく存在する。ラストのスタッフロールが終わる瞬間、観客の胸には長い夢を見ていたかのような切ない余韻が残るだろう。
(※次回上映ありません)