7月20日(金)
映画祭関連企画「JUMP!今、埼玉から世界へ~世界が期待する若手映像作家とは~」
“志を高く持つと同時に現実的であれ”国際映画祭への道を説く
パオロ・ベルトリン氏
SKIPシティ国際Dシネマ映画祭では20日(金)、映画祭関連企画として国際映画祭のプログラマーとして活躍するパオロ・ベルトリン氏を招き、トークイベント「JUMP!今、埼玉から世界へ~世界が期待する若手映像作家とは~」を行った。
ベルトリン氏は、2007年から映画祭のプログラミングに携わり、08年と09年にはヴェネチア国際映画祭の作品選定委員を務め、現在も同映画祭のアジア・オセアニア地区の作品担当に従事している。今回のトーク・イベントは、日本の若手フィルムメーカーが国際映画祭に出品する際に持つべき心構えや、注意点、具体的なテクニックなどを、ベルトリン氏が自らの経験談を交えて紹介したものとなった。
トーク・イベント中、ベルトリン氏は「志を高く持ち、大きな映画祭を狙うのも大事だが、自分の作品がどの映画祭にフィットしているのかといった現実的な判断も必要だ」と繰り返し強調。この言葉を象徴するかのように最初に挙げられたテーマは“なぜ映画祭に出品したいのか”となった。ベルトリン氏はこのテーマが“なぜ映画を作るのか”につながる根本的な問題であると指摘し、「国際映画祭は必ずしも自分の作品を見てもらう場として最も適しているとは限りません」と現実的判断を促した。
ひとつの例として、ドイツのフィルムメーカーを紹介。多くの国際映画祭にドキュメンタリー作品を出品していたものの、一人でも多くの人に作品を見てもらいたいとの願いから、YouTubeでの配信を決心。結果的に世界中の視聴者を集め、多くコメントが寄せられたという。また、出品によるデメリットも考慮すべき重要な点として言及し、観客や批評家からの意見が批判的であったため映画制作をやめてしまったフィルムメーカーの例を挙げた。
国際映画祭に応募する心構えを説いた後、話題は映画祭の選び方へと進行。ベルトリン氏は「国際映画祭が巷にあふれている昨今、どの映画祭が自分に適しているのかを探すのが課題だが、業界のプロでも把握しきれないくらい映画祭がある」と選択の難しさに触れつつ、世界的に評価の高い映画祭や、付加価値があるもの、もしくは特定の目的や観客を対象とした映画祭に分けられると解説した。ベルトリン氏は膨大にある映画祭の中から“自分の作品がどの映画祭にフィットしているのか”を判断する方法のひとつとして、各映画祭の公式サイトの活用を提案。過去に上映された作品の傾向を調べ、自分の作品に合う映画祭を探すことを推奨した。
「カンヌ映画祭」「ヴェネチア国際映画祭」「ベルリン国際映画祭」といったAリストと呼ばれる国際的に評価の高い映画祭における出品の難しさを、ベルトリン氏は力説。特にデビュー作がコンペティション部門で上映されることはめったにあることではないと、過去に出品した黒澤明監督、今村昌平監督、北野武監督、園子温監督、三池崇史監督らが何作目に出品に至ったかを引き合いに出して訴えた。ベルトリン氏は、「若手フィルムメーカーはAリストの国際映画祭に出品する努力を惜しんではいけないが、キャリアを築くのに適した国際映画祭はほかにもあるのです」とここでも現実的な判断を促し、ここ10年、日本の若手フィルムメーカーに注目している国際映画祭を紹介した。
この映画祭は外せないとベルトリン氏が真っ先に挙げたのが、「ロッテルダム国際映画」。同映画祭のコンペティション部門は1作目、2作目に限られているほか、通常1、2本の日本映画が上映されている。また、河瀬直美監督の『萌の朱雀』をいち早く取り上げた映画祭でもある。続いて挙げられたのが「ベルリン国際映画祭」のフォーラム部門。テーマが多岐にわたっているためプログラマーからの注目が高く、日本の若手インディペンデント作品を取り上げる機会も多い。「釜山国際映画祭」もデビュー1作目、2作目に限られているほか、アジア作品のみに絞られているため、取り上げられるチャンスが高いと話す。同じく韓国の「全州国際映画祭」は、エッジの効いた作品を取り上げる傾向にあり、またデビュー1作目、2作目のデジタル作品に絞っている点にも触れた。そして最後に触れるべき映画祭として、「バンクーバー国際映画祭」をピックアップ。名前は知られていないが、アジア映画を扱う「ドラゴン&タイガー部門」があり、日本映画のエキスパートであるトニー・レインズがプログラマーを務めている。
現実的で効率的な手段として、Aリストの映画祭以外に出品し、キャリアを積み重ねていく方法もあると、ベルトリン氏は実例を挙げた。富田克也監督の『サウダーヂ』は、ロカルノ国際映画祭で国際コンペ部門にノミネートされたことをきっかけに、ナント三大陸映画祭のコンペ部門に招待を受けグランプリを獲得。その後フランス配給も決まったという。また、熊坂出監督の『パーク アンド ラブホテル』も興味深い国際的活躍をみせていると紹介。釜山国際映画祭にてプレミア上映された後、ベルリン国際映画祭のフォーラム部門にて最優秀初長編映画賞を受賞するに至ったのだ。
“志を高く持つと同時に現実的であれ”。テーマは変われど終始一貫してベルトリン氏は若手フィルムメーカーにこの姿勢を求めていた。冷静な自己、および作品分析なくしては映画祭への道は切り開けない。“なぜ映画祭に出品するのか”に再度立ち返ることは非常に重要だ。ベルトリン氏は「アート系映画館が死滅してしまったこの状況のなか、映画祭が果たす役割は、観客にダイバーシティを与えること」だとプログラマーとしての責務を誓う。若手フィルムメーカーには、ダイバーシティのひとつとして、自分の作品がどの映画祭にふさわしいか、高い志で現実的な判断をしてほしい。