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【デイリーニュース】 7月13日(土)
vol.02 『ソルダーテ・ジャネット』元ネタはBECKの曲だった!?
ダニエル・ヘースル監督Q&A
「男社会で立ち上がる女性たちにエールを……!」

ダニエル・ヘースル監督

ダニエル・ヘースル監督

 

 2日目の13日は、10周年特別企画として、ロッテルダム国際映画祭公式参加作品を集めた特集上映「ロッテルダムDAY」が開催された。一本目には同映画祭のコンペで2013年の最高賞に当たるタイガー・アワードを受賞した、オーストリア出身のダニエル・ヘースル監督による『ソルダーテ・ジャネット』が上映され、ビタミンカラーのピンクのパンツで登壇したヘースル監督とのQ&Aが行われた。

 

 裕福な女性投資家のファニは、ショッピングやテコンドーに励むシングルライフを満喫しているようだが、彼女自身の人生が充実しているようには見えない。そんな中、資金繰りに困ってセレブな日常は一転する。正体を隠して共同生活を送る畜産場にもやがて警察の手が迫り……。本作に脚本はなく、キャストのバックグラウンドなどを参考にエピソードを組み上げ、それらをつなぎ合わせる独特のスタイルで作られた。セリフや説明を極力使わずに、画と音楽の力でストイックに語られた一人の女性のたくましい生き様は、ワンカットごとに強烈な印象を残す。アメリカ映画はほとんど観ない(!)と言い、ジル・ドゥルーズなどのポスト構造主義に大きな影響を受けたというヘースル監督だけに、一筋縄ではいかない映像表現が最大の魅力だ。

 

 「僕は過去に2本の短編を撮りましたが、国際映画祭で自分の作品が上映されたのは、長編一作目となる本作が初めてでした。ロッテルダム映画祭のタイガー・アワードの対象はデビューから二作品以内という規定があるので、若い映画人のサポートはもちろん、アヴァンギャルドな映画作家を応援してくれる映画祭であるとも思っています。僕の映画はコマーシャル的なものではなくオルタナティブなものを目指しており、ビジュアル的にも前衛的かつミニマルな作り方をしているので、そういう意味でもロッテルダムのカラーに相応しいかもしれません」

 

 劇中には「着物」や「抹茶」などの日本の文化も登場するが、オーストリアのセレブたちの間で特にジャパニーズ・カルチャーが流行っているわけではなく、ヘースル監督のユニークな感性によって採用されたものである。

 

 「外国のエキゾチックなものに身を包む光景を描きたくて使いました。個人的に抹茶にはとても興味がありますが。それに、ファニは感情がほとんど顔に現れず、時に予想を裏切るような行動を取りますよね? そのキャラクター自体がとても日本人的な女性だと思うんです」

 

 リッチなものに囲まれ、消費社会に逆に消費されていたかのようなファニは、すべてを失って真っ当な人生から外れていく反面、人間として余計なしがらみから解き放たれてどんどん自由になっていく。そこにもやはりヘースル監督の哲学が反映されており、なかでも彼女が大量のお金を燃やすシーンは象徴的だ。

 

 「考えられる可能性としては……あのお金は投資家としての彼女のキャリアを信用して銀行が貸してくれたものなのでは? ファニはそれを燃やすことで肩の荷が降りて、ホッとしたと思うんです。あれは有名な投資家のマドフ(巨額の金融詐欺事件を起こした)を茶化して描いたシーンでもありますし、今日の資本主義の世界で日々行われていることのメタファーでもあります。必要のないものを大量に買って地球を汚している……皆さんも試しにお札の一枚や二枚燃やしてみたら、きっと心が穏やかになりますよ(笑)」

 

 中年の独身女性をヒロインにした理由については明言を避けたものの、一つの解釈としてタイトルに込められた意味を挙げる。

 

 「本編にジャネットという名前の女性は登場しませんが、タイトルの“ジャネット”は歴史上の複数の女性からインスパイアされたもので、強いて言うなら彼女たちの総体としての“ジャネット”がヒロインであるかもしれません。実はこの映画はBECKの『ソルジャー・ジェーン』という曲から始まったものなんです。その曲名をドイツ語に置き換えたのですが、しっくりこなかったのでフランス語にして、さらに本来なら文法的にはない『e』を語尾につけて女性形としました。『心のカラを破ることを恐れるな』という歌詞から発想して撮影に臨んだのですが、歴代のジェーンたち——男社会の中で立ち上がる女性たち——へのエール、これが本作のテーマなんです」

 

 本編中にはジャン=リュック・ゴダール監督の『女と男のいる舗道』を引用する形で『裁かるゝジャンヌ』のワンシーンが出てくる。“ジャンヌ”もやはり“ジャネット”の一人なのだろうか。

 

 客席で一緒に上映を観たヘースル監督は、SKIPシティならではのハイクオリティな上映環境に「こんなに素晴らしい設備は初めて!」と感激。自作の新たな魅力を発見し、本映画祭の醍醐味を堪能する体験となったようだ。

 

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