【デイリーニュース】 7月13日(土)
vol.04 『ザ・リザリクション・オブ・ア・バスタード』
ヒド・ファン・ドリール監督Q&A 深堀りを楽しむ極め付きのエンタテインメント
ヒド・ファン・ドリール監督
SKIPシティ国際Dシネマ映画祭10周年特別企画「ロッテルダムDAY」の上映2作品目は、ロッテルダム国際映画祭2013のオープニングを飾ったヒド・ファン・ドリール監督の『ザ・リザリクション・オブ・ア・バスタード』。
直訳すると“悪党の復活”となるタイトルは、“イエスの復活”のもじりとも取れる。イエスは復活して奇跡を証明してみせたが、悪漢は観客になにを示すのか? タイトルからして、意味深長だ。
広大でフラットなオランダの、一本道を走っていく一台のベンツ。次のカットでは、背の高いブタクサを見上げながら放尿する、頸にコルセットをはめた男が映し出される。悪党とはこの男で、非道の限りを尽くしてきたが、今は手下の運転で、オランダ北部のドックム市を目指している。自分を死の淵に漂わせた男の手首にあった、市章の刺青を頼りに。
しかし、どうやら男は、襲撃の前後で別人のように変わってしまったようで、その変化に手下が驚くエピソードも積み重ねられていく。男は犯人を捜し当て、なにをしようとしているのか?
ファン・ドリール監督は、映画監督であり、グラフィック・ノベルの作家であり、アーティストでもある。本作は自身のグラフィック・ノベル“Om mekaar in Dokkum”を映画化したもの。レネルト・ヒリゲ撮影監督のカメラワークもさることながら、監督自らストーリーボードを描いたという映像は極めてスタイリッシュだ。
映像美とエンタテインメント性を前面に出し、クライムサスペンスとして秀逸。でも、それだけではない。強烈なメタファーが散りばめられており、いくらでも物語の深堀りを楽しめるのだ。
たとえば舞台となるドックムは、754年、木に精霊が宿ると信じるその地に住むフリジア人を改宗させようと木を切り倒した宣教師ボニファティウスが、彼らによって殺される場所であったり、アンゴラから亡命してきたドックム在住の青年の見る、口から手が飛び出す夢であったり、悪党のさらなるボスの名がジェームス・ジョイスであったり、他人の未来が見える少年だったり、焚火をしようとする男だったり、悪党がホテルのディナーに頼んだザクロが添えられた魚のボイルだったり……。
監督はいう。「最初にドックムを訪れた時、小島が点在する、その美しくも不思議な風景に感動した。海抜の低い、海に近いフラットな土地にもかかわらず、人々は木とともに暮らしている。映画でも語られるボニファティウスの話はオランダでは有名。この地ではいまもフリジア語が使われ、オランダの中でもとても独特の場所だ。この映画は、ドックムのファンドを使って撮ることができたため、とても興味深い作品になったと思う」。
残念ながら、本映画祭での上映は一度限り。見ていただくことは叶わないが、これは体験することはできる。映画でも印象的に描かれるクラブ・イベント「センセーション・ホワイト」だ。会場を埋め尽くす人々がすべて白いコスチュームで参加するイベントで、世界的なDJの音楽とともに4~5万人が朝まで踊り明かすのだそう。「イベントは、毎年、7月の第一土曜日にアムステルダムで開催される。本当は実際のイベント時に撮影したいと思っていた。しかし人が撃たれる場面を撮影するのはイベントのイメージが悪くなるという理由で、断られてしまった」と監督。来年、イベントに参加しがてら、アムステルダムで本作品を見るという贅沢。実現させてみてはいかがだろう。