【デイリーニュース】 7月13日(土)
vol.08 「ロッテルダムDAY」トークイベント
映画祭を成功させる秘訣とは?
「運営は間違いを重ねながら進めていくもの」
左から、ロッテルダム国際映画祭プログラマーのヘルチャン・ズィルホフ氏、井上都紀監督、女優でプロデューサーの杉野希妃さん、小野光輔プロデューサー
「ロッテルダムDAY」と称された一日の最後は関係者によるトークイベントで締めくくられた。ゲストにはロッテルダム国際映画祭で日本映画を含めた作品選考を担当しているプログラマーのヘルチャン・ズィルホフ氏、『不惑のアダージョ』がロッテルダムのコンペティション部門に招待された井上都紀監督、同じくロッテルダムに『おだやかな日常』が招待された小野光輔プロデューサー、同作の女優・プロデューサーである杉野希妃さんが招かれ、ロッテルダムの魅力と国際映画祭の運営について語った。
40年以上の歴史を持ち、常に新しい才能を世に送り出してきたロッテルダムの特色は、出品作品が特異であること。今回上映された『ソルダーテ・ジャネット』『ザ・リザレクション・オブ・ア・バスタード』『春夢』の三本も、普通ならば映画作りにおいて歓迎されない要素が入っているという。「たとえば一本の映画の中では作風を一貫すべきだと考えられていますが、『ソルダーテ~』はそれに反していますね。『ザ・リザレクション~』の監督はグラフィック・ノベルのアーティストで、映画監督ではありませんが、個性が強くて彼が何をしたいのかが伝わってくる。女性の性をオープンに描いた『春夢』は規制の厳しい中国の観客にとって新鮮な一本だと思います」
映画祭を成功に導く秘訣は「その映画祭が何を目指しているのかを明確にし、その指針に沿った作品を選ぶこと」だという。「ロッテルダムの場合、コンペ部門への出品は、その監督の二作目までに限るという条件があります。これは他の映画祭とは違う特色を打ち出すためのものであり、また無名の新人監督を発掘するという映画祭のコンセプトにも見合っている。映画祭の運営側と作り手の双方にとって有意義なルールなんです」
コンペ選出のもう一つの条件としては、同映画祭での披露がプレミア上映であることが挙げられる。短編部門で『大地を叩く女』が上映された翌年に長編デビュー作でコンペ部門に招待された井上監督は、ロッテルダムに出品するために他の映画祭からの招待を見合わせ、エントリーが始まるまで半年ほど待ったとか。そこまで作り手を惹きつける魅力として、杉野さんはプレス向けの試写の重要性を訴える。「ロッテルダムでの上映をきっかけに数々の海外の映画祭からオファーが来る。そのときにロッテルダムで上映することの威力を感じましたね」
ただし、あまりに厳格なルールをもうけてしまうと作品選びの幅が狭まってしまうため、これという一本を見つけたときには、いかに他の選考委員を説得してコンペにねじ込むか対策を考えることも大切だとヘルチャン氏は言う。また、映画祭は商売が目的ではないにせよ、その運営にはもちろん資金が必要である。恵まれているように見えるヨーロッパでも文化的なイベントを維持していくのは難しい状況になってきているそうだ。「売り上げが目的になってしまってはいけないですが、観客に対する約束として映画祭の水準と評判を保つには、とにかくお客さんを騙さないことが大事です。そのためには決して作品選びで妥協はできません」
他方、映画制作のデジタル化が進むにつれて出品作のフォーマットも確実に変わってきている。「デジタル技術によって映画は作りやすくなったかもしれませんが、かといって作品の質が向上したわけではないんです。その意味ではデジタル以前と変わりません。ただ、フィルム作品はかなり早いペースで減っていますね。今ではよほど実験的な作品でない限り、フィルムで出品されるものはほとんどありません。数字にして全体の10%程度でしょうか。このように国際映画祭はどんどんデジタル化していますので、この「D(デジタル)シネマ映画祭」という名称もいずれ変えなければならないかもしれませんね……!」
現在進行形で試行錯誤されているこれらロッテルダムの実績とノウハウは、世界中の大小の映画祭にとって、映画祭のあり方を見つける貴重なヒントとなるはずだ。「映画祭の運営は間違いに間違いを重ねながら進めていくもの。なかでもこうしたトークセッションの開催は最も難しい課題の一つなのでは(笑)? 失敗はつきものですが、次の年に同じ過ちを繰り返さないことが、成功へのカギだと思いますね。そして出品者の作り手には自分の考えや直感を信じて作ってくださいと言いたいです。映画祭に選ばれることを考えるよりも、作りたい、作らなければならないという強い思いを作品にぶつけてください!」