【デイリーニュース】 7月15日(月・祝)
vol.17 「短編(3)」Q&A
『京太の放課後』『もはや ないもの』『世の中はざらざらしている』
左から『世の中はざらざらしている』の熊谷まどか監督、『もはや ないもの』で園美役を演じた中村安理さんと三宅伸行監督、『京太の放課後』で京太を演じた土屋楓くんと大川五月監督
短編コンペティション部門「短編(3)」で上映されたのは、『京太の放課後』『もはや ないもの』『世の中はざらざらしている』の3本。それぞれ現実と向き合う子ども、空想と現実の狭間で揺れる青年、ストレスを抱え込んだ大人といった、異なる世代が抱えるそれぞれの不安定さに主軸に据えた作品がそろった。
『京太の放課後』は、震災後の揺らぐ感情を健気な子どもの姿を通じて描いたハートフルコメディ。英単語帳と防災ずきんを手放せない10歳の京太と、外国人教師ティムが織り成すチグハグな会話が笑いと涙を誘う。京太の母親役を清水美砂が演じているほか、本作の音楽を担当したシンガーソングライターのHARCOが英語の先生役としても出演している。
群馬県桐生市の桐生青年会議所の記念事業の一環として製作された本作。条件は桐生市で撮影するということのみであったため、大川五月監督は当時興味があった震災をテーマを取り上げることにしたという。「震災後にどうやってみんなが暮らしているかに興味がありました。震災時は日本にいなかったため、帰国後に家族や友人から話を聞きました。周りにお子さんを持っている友人が多かったことに加え、ニュースで震災後に地元に帰った外国の方が戻ってくる話を聞き、その話を混ぜて書いてみようと思って作りました」。
テーマは定まったものの、主人公の視点の描き方に関しては二転三転したと明かす。「当初、主人公は外国人の先生で考えていたんですが、彼が戻ってきた時点で話は終わっているんですね。むしろもっとドラマがあるのは子どものほうなんですよ。実はその子どもも最初は中学生の予定でした。しかし、現状を映すのに最も適しているのは、無垢でありつつ自分の意思があり、望みが叶うことを純粋に信じられる年齢だということになり、それが10歳だったんです」。
2本目の『もはや ないもの』は、事故で前歯を失ってしまった女と、彼女の義歯製作を担当することになった歯科技工士の男の関係をミステリアスに描いた小品。義歯を作る間、患者の姿や声を想像し、空想の世界に浸り会話を交わすのが常となっている歯科技工士の男。彼は決して出会うはずのない患者に出会い、空想と現実の狭間で揺れ動くことに。
新人俳優と若手監督が密度の濃い集中的演技指導(ワークショップ)を行い、映画撮影に臨む企画“全力映画”で製作された本作は、三宅伸行監督がたまたま歯科技工士に出会ったことで生まれた。「義歯を作る患者さんと会うことはないけれども、どんな人か、どんな姿勢か、何を食べているのかが大体わかると真顔で言われたんですね。これはすごく面白いなと。映画とか音楽とか、別にアートでなくても、自分が作っているものが誰かに届くことを最後まで見守ることができない、そういった点が共通していると思い作品にしました」。
本作で映画初出演を果たした園美役の中村安理さんもQ&Aに登壇。初めての現場で苦労した点を尋ねられると、「ずっと困っていたんですが、個人的に大変だったのが海辺のシーンです。なかなか泣けなくて結構時間を割いていただきました」ときまり悪そうに返答。それでも一番好きなシーンとして「ひとつに絞れないんですが、喫茶店で普段使わない台詞を言うシーン」を挙げるなど、女優としてのやりがいも見出していたようだ。
3本目に上映された『世の中はざらざらしている』は、ある荷物を埋めるための道具を買いに来た女と、ストレス解消と称して万引きをする男が郊外のホームセンターで偶然出会い、ふとしたことから共に湖を目指すことになったロードムービー。恋人でも友人でもない、疲弊したふたりのざらついた距離感を、主演の近藤芳正、渡辺真起子が表現した。
短編オムニバス企画『バナナVSピーチ』の1本として製作された本作。熊谷まどか監督は、男女それぞれの役者を起用するというオムニバスの規定に沿ってプランを膨らませた。「せっかく男女それぞれを使うのであれば、ボーイ・ミーツ・ガール物を撮りたいと思ったのですが、単純にその果てに生まれるのが恋とかではない、ひねくれたお話を作りたいと思いました」。作品名には熊谷監督が抱く、世の中に対する感覚が表れている。「見ていただいた方、それぞれに答えがあればいいのですが、ざらざらしているっていうのは、抵抗がないわけじゃないけれど、かといってチクチク痛いとか、ヒリヒリするほど酷くないといった、世の中に対する感覚として多くの方に共通するのではないかと思っています」。
本作終盤、湖畔で突然雪が降り始める印象的なシーンがあるが、実は想定外の事態だったという。「撮影したのが去年の年末の本当に寒い時期でした。実はシナリオのト書きには『湖面が夕日できらきらしている』と描いてあったのですが、夕日どころか湖面も見えない状況で・・・・・。結果としては雪が降ったことで奇跡のシーンが撮れていました」と熊谷監督は舞台裏を明かしてくれた。
『短編(3)』は次回、17日(水)17:00から映像ホールで上映される。