7月16日(月)
『月の下まで』 奥村盛人監督、那波隆史氏、松澤匠氏、富田理生さん Q&A
「撮影場所である高知県黒潮町の人々に支えられた映画です」
右から 恵理役の富田理生さん、雄介役の松澤匠氏、勝雄役の那波隆史氏、奥村盛人監督
長編コンペティション部門に出品された『月の下まで』は、高知県の漁村に暮らすカツオ釣り漁師・勝雄と知的障害を持つ息子・雄介の絆を描く物語。勝雄と年老いた母・せつ、息子・雄介による3人の暮らしは、せつの突然の死で終わりを迎える。雄介の世話をすべてせつに任せていた勝雄にとって、雄介の存在はひとつのプレッシャーに変わった。漁に出ることもできず複雑な想いを抱える勝雄を、勝雄の幼馴染み・多恵と多恵の娘・恵理らが支えた。そこにあるトラブルが発生する。
今回のQ&Aでは監督のほか、勝雄役の那波隆史氏、雄介役の松澤匠氏、恵理役の富田理生さんが登壇。全員の登場と同時に、場内からは暖かくも盛大な拍手が巻き起こった。岡山県生まれの奥村監督は高知県の大学に進学し、地元新聞の記者として活躍した経歴を持つ。多感な中高生の頃から映画を愛し、31歳で映画美学校へ。初の長編監督作となる本作では、みずから脚本も手がけている。
「高知を出る際に『かならず映画を撮る』と宣言して上京しました。高知を舞台にした映画を撮りたいと、ずっと考えていました」
高知県の漁村が舞台のため、総勢30名ほどのスタッフとキャストが地元の民家に“合宿”しての撮影が展開されたという。「一度こういった合宿の撮影をしてみたかった」と語るのは、勝雄役の那波氏だ。「周辺を歩いたり、地元の人と話すだけで役作りになるような環境でした。家族のように住むことができて、本当によかった」
若手俳優の松澤氏は、知的障害を持つ息子・雄介を文字通り熱演。役作りに際していくつかの養護施設を訪れたという。そこでヒントとなったのは“行動”に対する意識。「こう動こう」という意図が透けて見えると、作品における雄介の存在意義がなくなると考えた。
「そこで那波さんには『好きにやればいい』と言っていただきました。台詞がかぶってしまうこともありましたが、シーンごとに自分がどう見えるかを考えながら演じていました」
身体の動きがメインとなる難しい役柄を、やりすぎず抑えすぎずに表現する力と存在感のアピールは必見だ。奥村監督も「オーディションの時から一番気合いが入っていた」と語る。
「オーディションでドアを開けた瞬間から、のけぞるような感じを受けました。がんばっていただいて、本当に感謝しています」
恵理役の富田さんもまた、受験や恋に揺れる複雑な時期にある美少女の役で透明感ある演技を見せた。役柄が持つ繊細さなどについて、さまざまな解釈を試みたという。
「監督に相談することもあれば、今回の撮影では女性出演者のみなさんと同じ場所に宿泊していたので、みなさんにお聞きすることもありました」
この他、作中の表現に関する活発な質問が飛び交うなど、短い時間ながら作品の感動が醒めやらぬ状態が続いていた。この映画祭での上映が一般への初上映ということもあり、最後には奥村監督が感極まって涙する場面も。
そこで出た「監督が泣いてしまったので、今日はみんなで支えて帰ります(笑)」という那波氏のさりげない言葉から、暖かな環境の中で地元とスタッフがひとつになって作られた作品であることが強く感じられた。
『月の下まで』は、20日(金)14:30より多目的ホールでも上映する。