7月17日(火)
『二番目の妻』ウムト・ダー監督 Q&A
「社会的なテーマを含む作品ですが最も描きたかったものは女性2人の関係性です」
ウムト・ダー監督
長編コンペティション部門への出品作『二番目の妻』は、トルコを始めとする中近東に残る風習を通じ、2人のトルコ女性の関係性とその周囲を描く人間ドラマ。トルコの貧しい村で開かれている華やかな結婚式。若く美しい村の娘アイシェは夫ハサンとその家族が暮らすウィーンに移り住む。だが、彼女の本当の夫は夫の父ムスタファだった。一家の女主人ファトマは、病におかされた自分を継ぐ存在としてアイシェを迎え入れていたのだ。家族としてアイシェに信頼を寄せるファトマだが、状況は予期せぬ方向へ展開していく。
本作の原題“KUMA”とは「二番目の妻」を意味する言葉。跡継ぎの男子を求める場合など、トルコを含む中近東には非公式の妻を持つ風習が存在する。現在は法律で禁止されているが、風習が根強く残っているため現在も大きな問題とされている。本作で“KUMA”を迎え入れるのは、オーストリアに移住したトルコ系家族だ。
「アイシャの両親はすべてを承知しています。貧しい村に生まれた娘にとって、たとえ二番目の妻であろうともヨーロッパへ行くことができるビッグチャンスなのです。もっと恵まれた生活ができると彼女自身も考えています」
クルド系移民の一家に生まれたウムト・ダー監督は、ウィーン映画学校で『ピアニスト』のミヒャエル・ハネケ監督らに演出を学んだ。長編第一作となる本作では、民族に残る風習という重いモチーフを通じて、2人の女性の関係や家族のあり方といった普遍的なテーマを見事に表現している。
「現在、トルコにおいて“二番目の妻”は20万人存在します。娶(めと)る際は99%男性が決定しますが、その視点だとチープになってしまうため、女性側の視点から描きました。この映画のように女性である母親が決定することは滅多にありませんが、このように描くことでより悲しみが浮き上がります。彼女は家父長制を維持する為に自分を犠牲にしていても、その事実に気付いていない。『自分が正しいことをやっている』と思い込んでいる様を表現すると、非常に悲しいことであるとわかります」
この映画の舞台となったウィーンには、大きなトルコ系コミュニティが実在している。「トルコ系なら誰でも知っている」という風習をあえて描くことで、コミュニティからはさまざまな反応があったという。
「大きくわけて2つです。1つは『これは映画だ』と映画として受け止めて純粋に楽しむもの、もう1つは監督の社会的あるいは政治的な発言と捉えるものです。後者の多くは、この作品を観たトルコ系以外のひとたちが自分たちをどう見るのかを心配します。結果、作品に対する批判的な意見もありました。ただ、こういった問題はどのようなマイノリティのコミュニティでも、同じようなことが起きると思います」
しかしながら、真に描きたかったものは社会的なアンチテーゼではなく2人の妻の関係だと語る。
「伝統や家族、ジェネレーションによる価値観の違いなども描いてはいますが、一番描きたかったものはファトマとアイシェの関係です。あとの要素は自然とついてくると思いました。重要なテーマをひとつに絞り込まずに描いています。作品に対する最終的な解釈は、観客それぞれにゆだねたいですね」
『二番目の妻』は、21日(土)18:20から映像ホールでも上映する。