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【デイリーニュース】 vol.10 〈Dシネマ—新たなる潮流〉セミナー:「ANIMAを撃て!」VR特別編 VR制作におけるノウハウと未来
VRは単なる映像ではなく、人の経験のひとつとして取り込まれる
セミナーに登壇したアルファコードの水野拓宏代表取締役社長CEO兼CTO
近年のVR(Virtual Reality)映画の台頭を受け、今年は〈Dシネマ—新たなる潮流〉と題した特別企画を開催し、海外4作品、国内2作品のVR映画を、彩の国ビジュアルプラザ1階HDスタジオで、16日(日)から18日(火)にかけて上映している。その期間中、次世代クリエイターの育成を掲げ、VRの制作現場やビジネスに関わるゲストを迎えたセミナー・トークイベントを開催。17日(月・祝)の午後に2回目となるセミナー「セミナー:『ANIMAを撃て!』VR特別編 VR制作におけるノウハウと未来」がHDスタジオにて行われた。
ゲストとして登壇したのは、アルファコードの水野拓宏代表取締役社長CEO兼CTO。同社は今年のオープニングを飾った『ANIMAを撃て!』のダンスシーンをVRカメラで新たに撮り下ろした『「ANIMAを撃て!」VR特別編』の制作を担っており、セミナーでは同作の制作過程を追いながら編集ノウハウやアイデアを披露したほか、VRの基礎知識、そしてVRの未来についての解説も行った。なお、『「ANIMAを撃て!」VR特別編』は〈Dシネマ—新たなる潮流〉で上映している6本のうちの1本で、18日(火)まで鑑賞可能だ。
水野社長はまず、挨拶を兼ね、「新しい技術や考え方が日々出てきます。最近でしたら人工知能、ちょっと前であればARとかゲーミフィケーションといったものが出てきました。それを既存の事業に組み込もうとすると、ハードルが高かったりとか、どうやって組み込んでいいか分からない。そういうときに私たちはお手伝いをしています。今回は『ANIMAを撃て!』をVR化するというところをやらせていただきました」と自社、アルファコードの紹介から始めた。
VR(Virtual Reality)の本来の意味とは?
VR映画の制作過程の紹介に入る前に、VRをきちんと理解していない人が多いことに触れ、さらには“仮想現実”と訳されていることに疑問を呈した。「VR(Virtual Reality)というと仮想現実と日本語で訳しますよね。仮想現実という言葉から、CGで作られた虚構を見せる技術、VR=CG、VR=現実ではないものを見せる技術だと言われる方が多い。ここでそもそもVirtualとはどういう意味なのかを紐解いてみたいと思います。Virtualを英和辞典で索くと、『事実上/実際上/実質上〜〜同然である』という意味があるんですね。これは仮想という意味とかけ離れていると思います。Virtualとは表面上、名目上はそうじゃないんだけれども、事実上はそうなんであるという意味がある。なので、Virtual Realityをもう一度考えてみると、実質上、現実も同然であるという意味になるんですね。仮想現実とはちょっと違います。どちらかというと実質現実というんでしょうか」
この実質現実は様々な論文で研究、証明されているという。水野社長は、そのひとつとなる避難訓練の実験を引き合いに出して紐解いていった。迷路を作って脱出する時間を測る実験なのだが、これを4グループに分けて行ったのだ。実際の迷路を1回脱出したAグループ、VR上で迷路を3回自分で操作して脱出したBグループ、迷路の平面図を30秒見たCグループ、最短経路の映像を見たDグループの4つに分けたところ、当然Aグループが最も早く脱出できたのだが、次に早かったのはBグループだった。
この結果に対して水野社長は、「VRによる体感効果が避難訓練において高い有用性を示すことになった。つまり、VRの中である体験をして、こういうときには左に行くんだという経験を得る。すると現実でも同様の状況のときに左にいく。VRによる体験が、実際の経験で得たことと一致しちゃうんですね。VRは人間のなかで現実と同じ扱いをされるのです。少し、怖い話になりますが、VRは単なる映像ではなく、人の経験のひとつとして取り込まれる可能性が高い。これはVRの重要な本質といえるでしょう」と分析した。
「VRの制作では、企画や技術を駆使し、“現実同然”と感じさせることが重要」と力説する水野社長は、VR映像の撮影時におけるノウハウをここから導き出した。「VRは現実同然なので、カメラを通して何かを体験させるんだと思って企画されたほうがいいかと思います。例えば俯瞰の映像を撮るためにカメラを高いところに置いてしまうと、見る人にとってどういう体験なのか分からないですよね。しかし、私のところにカメラがあれば、見た人は自分は今セミナーで話をしているんだということが分かる。VRの映像を撮るときはどういう体験をさせたいのか、カメラ自身がその人の体験になるんだということを強くイメージしながら作ると良いでしょう」
VR制作ならではのノウハウ
VRの本質について会場の考えを一致させたのち、話は『「ANIMAを撃て!」VR特別編』の具体的な制作ノウハウへと移行。同作は「撮影」「スティッチング」「編集」「カラコレ」「エンコーディング」「再生」の6段階を経て制作されたという。セミナーでは各段階を細かく追っていったが、ここでは代表的なノウハウを2つ紹介したい。まず「撮影」だが、カメラを動かすことは絶対にしてはいけないという。「VRの映像を撮ろうとすると、カメラをダイナミックに動かしたいという話がでるんですが、VR酔いという問題が発生します。VR映像を見ている人は自分の視野として見てしまうため、自分が動いていないのに視野が動いてしまうと、自分のセンサーと目で見ている映像がズレてしまい、身体が悲鳴をあげて酔ってしまうんですね。カメラは必ず固定して撮りましょう」
VR映像は360°の映像を収めるため、通常複数台のカメラで撮影したものを合成するのだが、複数台撮影によって生じる現象についても水野社長は指南してくれた。「スティッチング・ラインと言われるカメラとカメラの間の部分があります。人間の眼に置き換えると分かりやすいんですが、両目の前に指を置いて遠くの景色にピントを合わせると指が2本に見えますし、逆に指にピントをあわせると奥の景色が二重に見えますよね。これと同じで、カメラの切れ目の近くにものが寄ってしまうと、全体にピントを合わせるような作業が難しくなるんです。今回の撮影では、どこまで近づいていいのかというところを振付師さんに相談しながら内容を詰めていきました」
「VRと映画の未来」に関する3つのポイント
基礎知識、VR映像制作とセミナーを続けてきたが、最後はその先ということで、水野社長は「VRと映画の未来」に触れ、自身が考えるキーポイントを大きく3つに分けて提示した。ひとつ目は“一人称視点での映画”だ。「VRは一人称視点での映像、体験というところがポイントになります。つまり、物語を追体験できる、そして物語の多面的な見方を楽しめるのです。どこを見てもいいので、1回だけではなく何回も楽しめて、そのたびに発見があるのです」。二つ目は“空間の感覚をも利用した映画”。「VRは広い、狭い、大きい、小さいという感覚をすごく鋭敏に感じられるんですね。ですからこれを利用して、見上げるくらい大きいというのを演出ではなく、実体験として感じられるのです」。三つ目は“視線が合うことによる感情変化を利用”。「VRの特長的なこととして、ディスプレイでは絶対にない、目が合うという行為を映像で与えることができるんですね。映像のなかの演者と目が合うことを利用した演出を使った映画が出てくるんではないかと思います」
制作過程も含め、かなり詳細にVR技術に踏み込んだ今回のセミナー。水野社長は来場者に会場でのVR映画の鑑賞を促し、もし気になったのなら、「2017年、VR/MRを使って、新しい「現実体験」を創りませんか?」と呼びかけてセミナーの幕を下ろした。
期間中はVR映画のみの体験も可能なので、興味がある方はぜひ訪れて、体験してみてはいかがだろうか。体験には整理券が必要となるため、来場前に以下に記したリンク先で確認しておこう。
■Dシネマ—新たなる潮流
7月16日(日)~7月18日(火) 各日13:00~18:00
<各日4回開催、入場無料/定員・時間制(最大50分)> 会場:HDスタジオ
■トークイベント:ストーリーのあるVR作品こその企画・演出方法
日時:7月18日(火) 14:00~14:30(開場:13:50)
会場:HDスタジオ
ゲスト:窪田 崇(『交際記念日』監督)、田中 渉(プロデューサー、『交際記念日』原作・企画)