ニュース
【デイリーニュース】 vol.19 特集〈飛翔する監督たち〉『特集短編』 Q&A 『It's All in the Fingers』『イチゴジャム』『ケンとカズ』
石川慶監督、庭月野議啓監督、小路絋史監督ーー最前線から当時と現在の接点を語る
左から『ケンとカズ(短編版)』小路紘史監督、『イチゴジャム』庭月野議啓監督、『It's All in the Fingers』石川慶監督
過去に本映画祭で作品が紹介され、現在、映画界の最前線で活躍する監督たちをお招きして、その原点となった作品を改めて振り返る、特集「飛翔する監督たち」。『It’s All in the Fingers』が2009年短編部門にノミネートされ、『愚行録』(17)で商業映画デビューを果たした石川慶監督。『イチゴジャム』が2010年短編部門にノミネートされ、最新作『仁光の受難』(16)が各国の映画祭で高く評価された庭月野議啓監督。『ケンとカズ』が2011年短篇部門奨励賞を受賞し、そのセルフ・リメイク『ケンとカズ』(16)で、日本映画監督協会新人賞を受賞した小路絋史監督。この三者が過去作と共に本映画祭に再登場した。
各作品の上映後、まずはそれぞれが自作についてこう語った。
石川監督「8年も前に作った作品なのですが、意外と今現在の自分の作風とつながっている部分がすでにあって、再見して自分自身が驚いています。人間の体の部分、特に手や耳に無意識の執着があるというか、見方によってはセクシャルにもグロテスクにもなるパーツにこだわってしまうというか……そういう描き方は確かに『愚行録』にもありますね」
庭月野監督「インパクトのある短編を作ろう! という思いで制作した作品です。イチゴジャムをモチーフに女性の性的衝動を描いているのですが、6年前にこちらで上映された際、ラストの近くで、あるお母さんがお子さんを抱えて、びっくりした様子で退場されてしまったんです。たぶん『子どもにこれ以上見せてはいけない!』ということだったのだろうと思います。なので、今回はちゃんとR-15指定の表記を入れていただきました」
小路監督「短編版は、カズ役の毎熊克也以外は職業俳優ではありませんでした。僕もまだ監督経験が今以上に浅かったので、演出のやり方に四苦八苦しました。こちらの映画祭で、奨励賞と一緒に賞金30万円をいただいて、それを元手に長編版制作へとつなげることができたので、本当に僕にとっては恩人のような映画祭です。ちなみに短編版は、ラストシーンの解釈が審査員の方がたの間で分かれていたようで、『もしも結末が違っていたら受賞作品には推さないつもりだった』という感想もいただいたりしたんです。それを聞いて、ああ、本当に映画の見方、受けとり方は人それぞれなんだなあ……と痛感したことを覚えています」
『ケンとカズ』は、短編版と長編版で、主人公2人の性格も、映画の結末も異なっている。それはなぜか? という質問に小路監督は答えた。
「最初は、せっかくリメイクするのなら、短編版とはぜんぜん違う『ケンとカズ』にしようと思ったんです。それで脚本を書き始めたのですが、なかなか進まず、悩んだ末に、大きく変えるのではなくて、短編を活かす部分は活かし、変える部分は変える、というふうにしよう、と思い直したのです。それで、主人公それぞれの性格が変わり、それに伴い結末も変わりました」
石川監督は制作当時を振り返り、こう語る。
「あの頃はちょうど次世代デジタルカメラのパイオニア的存在であるREDカメラが発売された頃で、それを買った友人に『カメラテストをしたいから貸して』とお願いして、この作品を作ったんです(笑)。今から見ると稚拙な部分が多いなあ、と自分でも思うのですが、技術面でも演出面でも当時の自分のできうる限りを注いで、短編だからこそ長編ではできないようなアイディアを盛り込みました。アメリカのブッシュ大統領が大量破壊兵器について語っているニュースなど、あの頃の自分にとって印象的だったものごとも反映していますね」
『イチゴジャム』の後、制作に4年、今年の秋の公開までに5年の歳月を費やした長編映画『仁光の受難』について、庭月野監督は語る。
「『イチゴジャム』の時は、技術スタッフなどを手伝ってくれる友人たちがいたので、演出以外の部分は任せていたところがありました。だけど、そうした仲間たちも社会人になって、おいそれと手伝ってよ、なんて頼むことはできないと思うようになって、『仁光の受難』ではアニメ処理やVFX処理も全て自分でやりました。インディーズである分、納得できる出来栄えになるまで、焦らずに時間をかけて。そうこうするうちに僕の技術もどんどん上がっていってしまって(笑)。結局、4年かけてしまったんです。『イチゴジャム』を作っていた7年前の自分なら、こんなに時間をかけてひとつの作品を作ることには耐えられなかったと思います。自分自身に起きたいろいろな変化に、かつての作品を見ることで、気づくことができました」