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【デイリーニュース】vol.06 『サクリファイス』壷井濯監督と出演者 舞台挨拶/Q&A

暗い中にも希望はあり、孤独や断絶を突き詰めた先につながりがある

(後列左から)『サクリファイス』の三坂知絵子さん、矢﨑初音さん、五味未知子さん、壷井濯監督、青木柚さん、藤田晃輔さん、櫻井保幸さん
(前列左から)下村花さん、細井優莉名さん、青木陽南さん、大川星哉さん

 

国内コンペティション長編部門出品作『サクリファイス』は、東日本大震災やカルト宗教、中東の戦争などを背景にした、ミステリアスで重層的な作品。壷井濯監督は、立教大学現代心理学部映像身体学科に学び、篠崎誠監督や黒沢清監督の作品にスタッフとして参加、第1回立教大学映像身体学科スカラシップ作品に選出された本作が長編初監督作となる。

 

幼いころ母親とともに新興宗教団体に所属し、東日本大震災を予知した翠(五味未知子)は現在大学生になっている。彼女の大学の周囲では、殺人や猫殺しなど不穏な事件が連続して起きており、同じ大学の塔子(矢﨑初音)は同級生の沖田(青木柚)が猫殺しの犯人ではないかと疑うが……。

 

作品上映後には、壷井監督とキャストあわせて10名がずらっと登壇。まず、キャストの皆さんが脚本を初めて読んだ時の印象や役作りなどについて語った。

 

青木柚(沖田役)

「完成した作品を観るのは今日が初めてです。沖田役は、台本をいただいた時は簡単に言うとサイコパスと受け取りましたが、人間ぽくないけど人間を表している人物。自分は電車でマナー違反をしている人を見て“ふざけんなよ”とは思うけど、手を出したりはせずに一歩手前で踏み留まる。そういうところは沖田と共通すると思います。演じる時に苦戦はしましたが壷井監督は演技指導に迷いがなく、何度も追い込むような感じでやっていただいて、結果的によかったです」

 

五味未知子(翠役)

「映像作品で演技をするのは初めてで、本当に緊張しましたがいろいろな体験をさせてもらいました。翠はこの物語で一番成長する女の子なので、自分も映画を通じて成長できればと思って演じました。いろいろな人に見ていただきたいです」

 

藤田晃輔(正哉役)

「最初に脚本を読んだ時、自分が福島県出身のこともあり、3.11を扱う作品を安易にはできないなと思いました。他人事に扱っている作品が多い中で、人間の小さな世界で起きている出来事を描いているのを感じて、正哉役を演じたいと思いました。正哉を “こういう人間”とフィルターにかけてしまうことはできない。愛を持って、心から誠実に演じようと決めて演じました」

 

櫻井保幸(狭山役)

「狭山という役は、作品の中でも大学の中でも異質な存在です。演じるにあたって考えたのは、彼が一番何を信じているかということ。おそらく社会的なルートに沿って自分で人生を決めずにきた彼には信じるものは特になく、役者をやっている僕とは真逆のタイプ。大学の時間は、自分の将来や生き方を決める大事な時期ですが、一貫したものを持たない彼は絶対的存在に影響されてしまう。シーンごとに彼の信じるものを考えて演じました」

 

矢﨑初音(沙織役)

「沙織は、キャストのなかでは一番観客に近い普通の人。でもただの普通の人としては演じたくなかったので、脚本を読んで沙織の役割を考え、普通の女性プラス、ちょっと含みを持たせるように演じました」

 

青木陽南(幼少の翠役)

「東日本大震災という難しいテーマをこのような物語にしてすごいなと思います。翠は予知能力を持っている女の子というやったことがない役柄で難しかったけれど、翠の子どもらしさを表現をするように頑張りました」

 

大川星哉(幼少の基役)

「脚本をわたされた時は理解が難しかったです。でもちゃんと脚本を読んだらだんだん見えてきて、楽しくできました。監督たちが優しくいろいろ教えてくれたので、撮影が楽しく進みました」

 

細井優莉名(幼少のソラ役)

「ソラは宗教団体の中という複雑な環境で育った、孤独さを持つ子。セリフのない中で演じるのは難しかったです。でも私がこれまでにあった監督の中でも壷井監督が一番真摯にむき合ってくれ、暖かい方だったのでリラックスしてできました」

 

三坂知絵子(翠の母・葉子役)

「子役の3人に撮影から1年半ぶりに会って、大きくなっていてびっくりしました(笑)。母親世代の登場人物は私だけ。娘を連れて宗教団体に入っている母親というのは、子どもの運命を変えてしまう。その中で自分の考えが変わった時に、子どもをどう自由にできるか、託せるかを考えて誠実に演じました。作品は構造的に難しいけれど、伝えたいことは力強くてまっすぐ。映画作りの熱意がすごくて現場も温かく、参加できたことを嬉しく思っています」

 

Q&Aには、壷井監督、青木、五味が登壇した。

  

壷井濯監督、青木柚さん、五味未知子さん

 

キャスティングはどのように行ったのか。

「若いキャストの多くはオーディションで決めました。沖田は難しい役柄なので、この人に頼みたいと心から思える人はなかなか出会えませんでした。その中で青木さんは、猫のスクラップを見せられるシーンをすっと演じてくださって、可愛らしい感じと本性を見せる感じがすごくよかった。“沖田みたいな気持ちわかる?”と聞いたら、迷いなく“わかります”と言ったので、この人にお願いしたいな、と。あと、顔が好きです(笑)」

 

青木は、「沖田には共鳴するところがありました。自分はよく悲しい顔に見られて暗い役が多いんですけど、明るい役もやりたいです」とアピール。

 

五味には、オーディションではなく、出演依頼をしたのだという。

「YouTubeにある映像で、五味さんがおびえながらもまっすぐカメラを見て歌っている映像が自分にとても響いて、いきなり“映画に出て下さい”と連絡しました。これから女優として羽ばたいていく方だと思います」と絶賛。

 

五味は「翠は生まれながらに超能力が使えたり、もともと重い運命を持った女の子。生まれてこなければよかったと思っている。私も暗いタイプなので、彼女の気持ちがわかって、演技経験はありませんでしたが、この役なら演じてみたいと思いました」と話した。

 

そんな壺井監督が影響を受けたのは、ある小説家だった。

「映画もいろんな作品から影響を受けていますが、もともと本が好きで、映画を考える時も映像よりまず文字が浮かびます。村上春樹さんには大きな影響を受けていています。今回、自分自身が被災したわけでもない3.11を描いていいのかと思いましたが、村上さんが阪神大震災からオウム事件までの周辺を描いた『神の子どもたちはみな踊る』のような描き方なら必要とする人がいてくれるんじゃないか、何よりも自分がこういうものがあったら読みたいと思いました」

 

監督は暗い作品が好きなのか? という質問も飛んだ。

「好きなのかもしれません。いまは若者が明るい気持ちになれない時代だと思っているので、物語を考える時もキラキラ楽しい話はまず浮かんできません。明るく楽しくみんなでつながって、というものは自分は信じられません。ただ、暗い中にも希望のある物語を探しています。孤独とか断絶を突き詰めていった先につながりがあると思って作品を作っています」

 

サクリファイス』の次回上映は、7月17日(水)10時30分から多目的ホールで行われ、ゲストによるQ&Aも予定されている。