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【デイリーニュース】vol.12 『ザ・タワー』パトリス・ネザン プロデューサー Q&A

SKIP史上初の長編アニメーション!「難民問題」をあえてアニメーションで撮ったわけ

ザ・タワー』のパトリス・ネザン プロデューサー

 

レバノンの難民キャンプに暮らす少女とその家族を描く『ザ・タワー』は、長編アニメーションとして本映画祭史上初めて国際コンペティション部門に選出された作品。

 

ベイルート郊外のブルジュ・バラジネ難民キャンプに暮らすパレスチナ人の少女ワルディ。ともに暮らす家族や親戚は、それぞれがつらい記憶や未来への希望を抱えている。1948年に故郷を追われ、この地にたどりついた大好きな曽祖父シディからある日、大切に持っていた家の鍵を託されたワルディは、彼が帰郷の夢をあきらめてしまったのかと不安になるのだが……。

 

監督のマッツ・グルードゥは、ノルウェー出身の映画監督・アニメーション作家。現在は本作を持って中東の難民キャンプを回っているとのことで、上映後のQ&Aにはプロデューサーのパトリス・ネザン氏が登壇した。

 

「監督のマッツは、母親がセーブ・ザ・チルドレンの看護師だった関係で、子供時代から毎年夏をブルジュ・バラジネ難民キャンプで過ごしていました。のちに映像作家となり、難民キャンプを題材にしたドキュメンタリー映画を作ろうとしていたんですが、アニメーションの形のほうが普遍的な作品になると思いました。ワルディの家族は、マッツの友人家族がモデルになっています。通常のアニメーション映画と違って、本作はほぼドキュメンタリー。すべてのキャラクターにモデルがおり、セリフも実際に難民キャンプで行ったインタビューがもとになっています。作品に登場する写真は監督がリサーチする中で借りたものですし、キャンプの描写も現地の写真やビデオからできるだけ忠実に再現するよう努めました」

 

エピソードの数々はほぼ現実に起きたことの記録だというが、アニメーションの声優はパレスチナのプロの俳優たちが行っているのだとか。

 

「声も音楽も映画の重要な要素。声優はパレスチナの有名俳優にお願いしました。キャンプの人たちに演技経験はないし、監督も声優の演出にも慣れていない。それに、パレスチナ人だからこそわかる繊細なニュアンスも出してもらえたと思います」

 

現在の難民キャンプのシーンはクレイのストップモーション・アニメーション、過去の記憶は2Dアニメーションと、ふたつの手法を駆使して物語が描かれる。

 

「パペットは本当に存在していて後ろに回り込むこともでき、生きているように見せられます。あまりクリーンな造形にはせず、実際にモデルになった人に似せました。一方、人の記憶はあいまいなものなので、2Dアニメーションでは雑誌『ザ・ニューヨーカー』でも活躍するグラフィックノベリストに現実的すぎないフラットな絵を描いてもらいました。そうすることで共感の度合いや空気感を調整したのです」

 

ワルディの姉は、恋人がいるにもかかわらず、外国に嫁いで難民キャンプを出ていくことになっている。こういうことは実際に起こっているのだろうか。

 

「それが現実です。よりよい暮らしや未来のためにスウェーデンやノルウェー人など外国人と結婚して、あの状況から逃れようとする人たちがいます。しかし、一度国を出たらもう戻ることはできない。親にも親戚にも二度と会えなくなるという大変な決断なのです。これはパレスチナだけでなく、世界中の難民キャンプが同じような状況。近年のヨーロッパの政治家たちは難民受け入れの門戸を閉ざそうとしていますが、私たちはこの映画を通して反対の声をあげたい。第二次世界大戦当時、多くのフランス人やドイツ人が国を出てアメリカなどに受け入れてもらったことを忘れてはいけません。シリアやアフリカなどからの難民たちを、人道的な立場からきちんと受け入れるべきだと思います。監督が言いたいのは、こうした問題に対して誰が良いか悪いかではなく、パレスチナとイスラエルの人々がお互いを敵視せず、特に若い世代が対話をはじめるきっかけにこの作品がなれば、ということなのです」

 

ザ・タワー』の次回上映は、7月17日(水)17時から多目的ホールで行われ、ゲストによるQ&Aも予定されている。