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【デイリーニュース】vol.19 特集上映「トップランナーたちの原点」三池崇史監督、土川勉プロデューサー、椎名桔平 トークショー『新宿黒社会 チャイナ・マフィア戦争』

三池崇史監督が主演・椎名桔平と共に自身の劇場映画デビュー作を語る

(左から)『新宿黒社会 チャイナ・マフィア戦争』の三池崇史監督、椎名桔平さん、土川勉プロデューサー

 

今年の国際コンペティション部門の審査委員長である、三池崇史監督の劇場長編デビュー作『新宿黒社会 チャイナ・マフィア戦争』が、特集「トップランナーたちの原点」の一本として上映。三池崇史監督と主演の椎名桔平、プロデューサーの土川勉が登壇するトークショーが行われた。

1995年公開の本作のプロデューサーは、現在、本映画祭ディレクターである土川勉。縁は深い。

 

新宿・歌舞伎町。勢力を伸ばしつつあるチャイニーズ・マフィア “龍爪”。彼らを追う新宿署の刑事・桐谷(椎名桔平)は、警官刺殺事件の捜査の途中で、弁護士を目指す弟・義仁が“龍爪”に雇われていることを知る。日本ヤクザ、チャイニーズ・マフィアの新旧世代の三つ巴の戦争に、一匹狼の桐谷は翻弄される。

 

世界にファンをもつバイオレンスの巨匠、三池崇史監督の原点となる作品とも言うべき、強烈な描写が満載の作品。今回は貴重な35mmフィルムでの上映である。

「24年前の作品ですが、自分自身は今と変わらないなと思いました。あの頃の“熱”ってなんだったんだろう……。面白いものを撮りたいっていう不思議なエネルギーだったんでしょうね」と三池監督は話す。

 

「この映画の舞台は新宿・歌舞伎町。最新作『初恋』(19)も新宿が舞台なんですが、気配がかなり変わりました。当時はヤバかったですからね。ヤクザもいれば中国マフィアも台頭しかけていた……。今の新宿しか知らない人にとってはファンタジーだと思うでしょうが、本当のアンダーグラウンドの世界があった。そんな新宿でのゲリラ撮影ですから、エキストラなんて仕込む余裕はないし、そんな嘘っぽいことはしたくない。街の中を、人の間を、車の間を、本当に走り回りました」。それがアクションにリアルさや緊張感を生み出している。何より新宿といういうの街のパワーを見せてくれているのだ。

 

弟が中国マフィアを乗せて走り出した車を、桐谷が走って追う。そのシーンを思い出した椎名は「あれは本当にきつかった。朝の新宿の車道をもう何回も全力疾走させるんですよ。最後『うえっ』とか言っていますが、本当に吐きそうでした」と苦笑い。

「一発で撮っていますからね。何テイクも全速力でワンカット走り通してもらった。最後は吠えていたからな。周りの人が驚いてたよね(笑)」と監督。

 

椎名桔平にとってはこれが初主演作。この後、初めての出たTV連続ドラマが、月9「いつかまた逢える」だった。以降、映画にテレビに引っ張りだことなっていく椎名。その起用の理由をプロデューサーだった土川は「まず、かっこいい。品のある芝居をする。そしてなによりも、三池監督が要求する芝居に体力的に耐えられる」と明かす。

 

「あの頃の椎名桔平はやばかったもんな。エッジが立ってて、ツンツンだったから(笑)」と監督が付け加えると、椎名は「だからって、若手の役者に俺を紹介するのに『この男、やばいよ』って言うのはやめてもらえます?」と笑う。「随分大人になったよね。俺も丸くなったけど」と、さらりとかわす監督。

 

「やばくても、やばいままでいられるのが映画界。そういうのがなくなってきているよね。客がどれだけ入るかとか、視聴率はどれだけとれるかってことが目的になっている。客が入るのはいいことなんですが、そういうところじゃなく、客がいるかどうかわからないところをこじ開ける。他ではやらないことをやる。やりたいものをやろうっていうのがなければ。予算や時間がないからできない、なんて言ってないで、こうすればできるという方法を考える。そういうものづくりのほうが面白いものが作れると思う。この『新宿黒社会』では台湾ロケをしているけれど、オリジナルビデオの予算だからロケ費なんてあるわけがない。でも、やってしまう。台湾のプロデューサーは『悲情城市』(89)を作った方でしたが、この作品を気に入り、『金はないけど、こういうことをやりたいのか。それならどうにかしよう。金の問題じゃないよ』とやってくれました」と監督は語る。

 

そんな三池監督の話に、土川プロデューサーは「台湾の映画人には“カツドウ屋”というか、“映画屋”気質があるんですよね。だから撮影しやすいんですよ」と補足する。

 

話はさらに広がりを見せる。俳優の立場から椎名は「今、役者も奔放にはできない、閉塞感があります。それが、例えばNetflixや海外作品ならテーマ的にもリミットなし、自由にやれる。そういうのを経て、映画も変わっていくんじゃないかと思います。その時はまた、三池さんとやってみたい」と語った。

 

年齢や経験に関係なく、自身がもっと納得のいく役者になったとき、また三池監督と組みたいと言う俳優は何人もいる。三池崇史監督は俳優たちのメンターなのである。