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【デイリーニュース】 vol.22 『Noise』 松本優作監督、篠崎こころ、安城うらら、鈴木宏侑、岸建太朗、仁科貴、布施博 Q&A
考え続けること、問いかけ続けることが大事
左から『Noise』の布施博(出演)、鈴木宏侑(出演)、岸建太朗(出演・撮影監督)、仁科貴(出演)、安城うらら(出演)、篠崎こころ(出演)、松本優作監督
映画祭も5日目。折り返しを過ぎて、長編コンペティションの国内作品3本目となる『Noise』が19日(水)、映像ホールにて上映された。
秋葉原の無差別殺人事件にインスパイアされて、24歳の監督が描き出そうとした“今の時代の空気”。平行して描かれる3人の若者、美沙、里恵、健の3つのドラマは観る人に、鋭い問いを投げかけてくる。上映後のQ&Aには、松本優作監督をはじめ、美沙役の篠崎こころさん、里恵役の安城うららさん、健役の鈴木宏侑さん、美沙の父親役と撮影監督も務めた岸建太朗さん、里恵の父親役の布施博さん、そして健の上司役の仁科貴さんが登壇した。
秋葉原の無差別殺人事件で母を失い競馬狂いの父と暮らす地下アイドルの美沙。祖父の介護と仕事に疲れた父とそりが合わず家出を考えている女子高生の里恵。借金まみれの母との暮らしにも配送業のバイトにもうんざりしている青年、健。3人のドラマが秋葉原で交錯し、その出口も希望もない悩み・苦しみ・葛藤は行き詰まっていく……。
「いろいろな思いがあって、自分でも整理ができない感情をすべてこの映画に込めました」と松本監督。1992年に神戸で生まれ、ビジュアルアーツ専門学校大阪を卒業後、映像制作会社に就職。21歳でDVDシネマ『彼女が彼女を愛した時』を監督し商業デビューを飾っている。『Noise』は劇場公開映画デビュー作になる。「高校生の頃、友だちが自殺しました。同じ頃に秋葉原の無差別殺人事件が起きて、2つのことが僕の中で交差したんです。自分で死ぬことと、人を殺すこと。なんでそんなことになっちゃうんだろうという疑問がずっとあって、専門学校生の時に短編映画を作ったんです。でも、それだけでは描ききれないと感じていて、これを描かなければ、僕自身前に進めないなと思って長編を作ることにしました。それでも答えは出ていませんが、考え続けること、問いかけ続けることが大事なのではないかと思っています」と松本監督は胸中を明かす。
そんな松本監督を初期の企画段階から支え、協力したのが岸さんだった。岸さんは2010年の本映画祭長編部門に自身の監督作『未来の記録』がノミネートされるなど、本映画祭にも馴染み深い。本作では脚本協力や編集にもクレジットされているが主に撮影監督として関わっている。「初期の企画の頃から“共犯者”のように2人で一緒にやってきました。そのうちいつの間にか気がついたら父親役のところに名前が出てまして」と岸さんは苦笑する。
さらに、岸さんはキャスティングの功労者でもあることが、仁科さんの口から語られた。「岸監督とも松本監督ともご縁がありまして出演させていただいたわけですが、まさかこんなシリアスな作品に出していただけるとは思ってもいませんでした。だって岸監督との最初の仕事って、握り寿司の上に乗っかって炙ぶられるネタって役でしたからね」
それを聞いて笑いをこらえられなくなったのが、世の中すべてに憤りを感じている配達員の健を演じた鈴木さん。挨拶でも「大橋健役を演じた鈴木宏侑です」としか言わなかった寡黙な彼は、岸監督の『未来の記録』の主演を務めた縁でキャスティングされたそうだ。ちなみに今回、健のだらしない母親役を演じたのも『未来の記録』で鈴木さんの母親役を演じている女優さんだとか。「松本監督が『セットでほしい』って言ったんだよね」と岸さんが思わず暴露。
地下アイドルの美沙を演じた篠崎さんは最近までアイドルユニット「プティパ-petit pas!-」のメンバーとして活躍していた現役アイドル。「演技はすべて初めてで、それをこんな大きなスクリーンで皆さんに見ていただけるなんて、不思議でそわそわしています」と緊張な面持ちの篠崎さん。松本監督が彼女を見初めたのはとあるオーディションだったという。「ミスiDっていうオーディションで、僕、カメラマンをやっていたんですよ。200人くらい受けに来ていましたけど、篠崎さんは一人だけ違う感じがして印象に残っていたんです」と松本監督が打ち明けると、「知らなかった……」と篠崎さんはびっくり。
もう一人のヒロイン、里恵を演じる安城さんも現役アイドルグループ「オトメブレイヴ」のメンバー。こちらは松本監督がライブで発見、出演を依頼したという。美沙の出演する地下アイドルのライブのお客さんは、篠崎さんや安城さんのライブに通ってくる本物のファンの皆さん。地下アイドルのライブの様子がリアルに感じられるわけだ。
本作では、演技は初めての篠崎さんや、自主映画中心に出演する鈴木さんの脇をベテランの仁科さんや布施さんがしっかりと固めている。会場からは、どうしてこんなに若い監督の初劇場公開作品に出ることにしたのかと、布施さんに質問が飛んだ。「いつもなら脚本で決めるのですが、今回はマネージャーから才能のある若い監督の作品があるんだけれど、出ないかって話がありまして。僕は今役者を育てたいと思って劇団を作ったり劇場を作ったりしていますが、監督も役者も若い人がタッグを組んで、芝居も映画も盛り上げていかなければと思っています。監督はうちの長男と同い年なんですが、いやあ、しつこかった(笑)。何回もやらされてね、まだやるのかってくらいに(笑)」と責める布施さん。松本監督は布施さんに見つめられて照れながら「小学校のころからのファンだったもので、ダメもとで聞いてもらったんです」と返す。ベテランの胸を借りながらも、自分の世界を表現しようと食い下がる。松本優作監督の挑戦は始まったばかりである。
『Noise』は22日(土)11時より、多目的ホールにて2回目の上映がある。「一度観るだけでは、分からないところもあるかもしれません。僕自身何回も観ているけれど、まだ観るたびに考えることが出てきます。ぜひもう一度観て、誰かと話してみてください」と最後に松本監督がメッセージを送ってくれた。