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【デイリーニュース】 vol.25 特集〈飛翔する監督たち〉『チチを撮りに』 中野量太監督 Q&A
「久しぶりに見たら、泣けました」
『チチを撮りに』の中野量太監督
映画祭は終盤7日目。特集「飛翔する監督たち」として、『チチを撮りに』が21 日(金)、多目的ホールで上映された。
『チチを撮りに』は母・佐和(渡辺真起子)から「家を出ていった父親がもうすぐ死ぬから、その顔を写真に撮って来て欲しい」と頼まれた葉月(柳英里紗)と呼春(松原菜野花)の姉妹が、道中で父の訃報を知り……というストーリー。2012年の本映画祭長編部門で、日本人監督として初めての監督賞受賞、SKIPシティアワード、観客投票第1位に輝いた。2013年2月には、SKIPシティDシネマプロジェクト第3弾として劇場公開。ベルリン国際映画祭での上映を皮切りに数多くの海外映画祭に招待され、アジアのアカデミー賞、アジアン・フィルム・アワードでは最優秀助演女優賞を受賞した。上映後のQ&Aには、中野量太監督が登壇した。
この日の午前には、第40回日本アカデミー賞で最優秀主演女優賞と最優秀助演女優賞を獲得し、6部門で優秀賞を受賞した商業映画デビュー作『湯を沸かすほどの熱い愛』も、日本語字幕と音声ガイド付きでバリアフリー上映された。2作を連続で見た観客も多く、会場からは熱心な質問が相次いだ。
同時間に上映されたアニメ映画『この世界の片隅に』が満席と聞いた中野監督は、「こちらにお越しくださった方、どうもありがとうございました」とあいさつ。「自分の手を離れているところで久しぶりに見たら、涙が出ました。妹がお姉ちゃんとけんかするシーンでグッときてしまった。ダメですかね?」と笑う。
着想については、「母の映画を撮ろうとしていました。僕の映画はだいたい片親の物語です。“母がいたから、自分たちがいたんだ”。それがこの映画のテーマです。父親の骨の写真を撮ってきて、帰ってくるというプロットが浮かんだ時にこの映画はいけると思いました」と話した。
題名の“チチ”をカタカナ表記にしたことには「父」と「乳」の2つの意味を持たせたかったという。2作に共通してブラジャーが登場することについて聞かれると、「ブラジャー。好きなんですかね(笑)? 母親のブラジャーに執着はなかったんですが、表現や象徴としてのブラジャーが好きなんです。次の作品も楽しみにしていてください。こんなことを言ったら、また入れなければいけなくなってしまうけれども……」と話し、会場の笑いを誘った。
本作は中野監督自身による緻密な脚本への評価が高い。「脚本はいつも時間をかけて書くんです。何回もやってると、伏線を張ることができて、うれしくなるんです。だから、脚本から完成した作品まで、ほとんど変わっていない。映画はディテールの積み重ねが魅力。必ずやるようにしています」と胸を張った。
現在は次回作の企画が複数進行中。脚本の推敲に取り組んでいるという。「原作もの、共作ものにチャレンジしています。でも、基本的には自分で書きたいという思いがあるので、自分の言葉で作っていきます。僕が脚本に関わらない形でやることは一生ないと思います。ただ、ゼロからのオリジナルは、1回吐き出すと、2、3年はかかる。『湯を沸かす〜』で出し切ってしまったので、今は(アイデアを)貯める時ですね。でも、また完全オリジナルでやりたいと思っています」と力を込めた。新作は来年の撮影を予定しているという。
次回、特集「飛翔する監督たち」では、22日(土)17時30分より『ロストパラダイス・イン・トーキョー』を上映。上映後には、上映作品の監督・白石和彌さんと、中野量太監督、坂下雄一郎監督によるトークイベントが予定されている。