特集「飛翔する監督たち」
2016年から2017年にかけて、過去に本映画祭にノミネートされた監督たちの新作や商業デビュー作、初長編作品が、劇場公開されたり、国内外で映画賞を受賞するなど、さまざまな場面で注目を浴びました。本特集では、今となってはなかなか観ることのできない、現在活躍する監督たちの本映画祭での上映作品、長編3本および短編3本を上映します。荒削りでも情熱ほとばしる才能の原石を、ぜひこの機会にご覧ください。
ロストパラダイス・イン・トーキョー/Lost Paradise in Tokyo2009年長編部門SKIPシティアワード受賞
7.22(土)17:30
2009年/日本/115分
安住の地、本当のパラダイスとはどこにあるのだろうか―。
知的障害を持つ兄・実生と暮らすことになった幹生は、実生のために呼んだデリヘル嬢のマリンと知り合う。兄との関係に悩む幹生と、性の捌け口となりながらも自分をアイドルと称するマリン。3人の慟哭が響く!
©2009 Cine Bazar
監督:白石和彌
出演:小林且弥、内田慈、ウダタカキ/米山善吉、磯部泰宏、
市村直樹、草野速仁、重廣レイカ、奈良坂篤/奥田瑛二
<解説>
2009年の長編部門で第一回のSKIPシティアワードを受賞した本作は、釜山国際映画祭、ドバイ国際映画祭、ロッテルダム国際映画祭と、数々の世界の著名映画祭に招待され、2010年9月18日に劇場公開。白石和彌監督は、2013年の商業デビュー作『凶悪』が日本アカデミー賞優秀作品賞を始め、数多くの賞を受賞。海外でもモントリオール世界映画祭、釜山国際映画祭で上映されるなど、国内外で高い評価を得た。その後、『日本で一番悪い奴ら』(16)、『牝猫たち』(16)が立て続けに公開され、今後も、『彼女がその名を知らない鳥たち』(17)が公開待機、2018年公開の大作『孤狼の血』の製作も発表されるなど、日本映画界を牽引する一人である。
監督:白石和彌
1974年北海道生まれ。1995年、中村幻児監督主催の映像塾に参加。以降、若松孝二監督作品へ助監督として参加する一方、行定勲、犬童一心監督などの作品にも参加。初長編となる本作を経て、2013年の『凶悪』は、同年の映画賞を総なめにする。2016年には『日本で一番悪い奴ら』が公開、大きな話題を呼ぶ。
チチを撮りに/Capturing Dad2012年長編部門監督賞
SKIPシティアワード受賞
7.21(金)14:30
2012年/日本/74分
感動の再会と思ったら、そこは修羅場でした。
葉月と呼春の姉妹は、母・佐和から「家を出ていった父親がもうすぐ死ぬから会いに行って、ついでにその顔を写真に撮って来て欲しい」と告げられる。しぶしぶ出かけた二人だが、道中で父の訃報を知り…。
©2012 ピクチャーズネットワーク/日吉ヶ丘ピクチャーズ
監督:中野量太
出演:柳英里紗、松原菜野花、滝藤賢一、二階堂智、小林海人、今村有希、星野晶子/渡辺真起子
配給:デジタルSKIPステーション
<解説>
2012年の長編部門で、日本人監督として初めての監督賞受賞、さらにSKIPシティアワード、観客投票第一位に輝いた本作は、SKIPシティDシネマプロジェクト第3弾として、2013年2月16日に劇場公開。国際的にも、ベルリン国際映画祭での上映を皮切りに数多くの映画祭に招待され、アジアのアカデミー賞、アジアン・フィルム・アワードでは最優秀助演女優賞を受賞した。『湯を沸かすほどの熱い愛』(16)は、商業デビュー作にして、宮沢りえ、オダギリジョー、杉咲花といったスターがこぞって出演。報知映画賞で作品賞を含む4冠、日本アカデミー賞では主演女優賞、助演女優賞の2部門で最優秀賞、6部門で優秀作品賞を受賞した。
監督:中野量太
1973年生まれ、京都府育ち。日本映画学校の卒業制作『バンザイ人生まっ赤っ赤。』(00)が同校今村昌平賞などを受賞。初長編である本作がSKIPシティ国際Dシネマ映画祭2012で日本人初の監督賞を受賞し、その後第63回ベルリン国際映画祭など各国の映画祭に招待される。『湯を沸かすほどの熱い愛』(16)で商業映画デビューを果たした。
神奈川芸術大学映像学科研究室/Kanagawa University of Fine Arts, Office of Film Research2013年長編部門審査員特別賞受賞
7.20(木)17:00
2013年/日本/70分
諸般の事情により、インペイすることを報告します。
神奈川芸術大学映像学科の助手・奥田は、ある晩、学生が機材を盗み出す現場に遭遇する。事件の発覚を恐れた教授陣は、奥田に隠蔽を命じるが、ウソの報告書をきっかけに事態は思わぬ方向へと進んでしまう。
©東京藝術大学大学院映像研究科
監督:坂下雄一郎
出演:飯田芳、笠原千尋、前野朋哉、宮川不二夫、高須和彦、中村有、嶺豪一、中本章太、細井学
配給:デジタルSKIPステーション
<解説>
東京藝術大学大学院映像研究科の修了制作として作られた本作は、2013年の長編部門で審査員特別賞を受賞。さらにSKIPシティDシネマプロジェクト第4弾作品にも選ばれ、2014年1月25日に劇場公開された。本作に見られた、ユーモアを交えながらチクリと組織の体制やアクシデントに振り回される人間の滑稽さを皮肉る、その鋭いストーリーテリングの技は、松竹ブロードキャスティングオリジナル映画製作プロジェクト第3弾作品として劇場公開された商業デビュー作『東京ウィンドオーケストラ』(16)でも健在。すでに次回作『エキストランド』の製作発表も行われるなど、坂下監督は若手の筆頭格として期待される一人である。
監督:坂下雄一郎
1986年広島県生まれ。2011年に監督した『ビートルズ』や、2013年のオムニバス作品『らくごえいが』の中の一編で注目され、同年東京藝術大学大学院映像研究科修了制作として監督した本作がSKIPシティ国際Dシネマ映画祭2013長編部門で審査員特別賞を受賞し、その後劇場公開。2017年公開の『東京ウィンドオーケストラ』が初の商業映画となる。
特集短編(合計65分)
It's All in the Fingers/It's All in the Fingers2009年短編部門ノミネート
2009年/日本、ポーランド/10分
『愚行録』の石川慶監督がポーランドで制作した、アイロニー3連打!
ポーランドの日常に、謎の巨大な「指」が現れる。その時、ホワイトハウスではブッシュ大統領が見つかりもしない大量破壊兵器についての声明を発表していた。そして、巨大な「指」は国境さえも超えて…。
監督:石川慶
出演:ヴィンツェント・ヴァルチャック、ドロタ・キエコヴィチュ・スシュカ、ピオトル・ぺツィナ
<解説>
2009年の短編部門にノミネートされた、謎の巨大な指が巻き起こす、3つのショート・ストーリーからなる異色作。石川慶監督は、東北大学卒業後、アンジェイ・ワイダ、ロマン・ポランスキーらを輩出してきたポーランド国立映画大学で演出を学んだ国際派であり、本作も全編ポーランドで制作されている。制作した短編が数多くの映画祭で上映され、受賞を果たしている。長編初監督となった妻夫木聡、満島ひかり主演の『愚行録』(17)は、2016年のベネチア国際映画祭オリゾンティ部門でワールド・プレミアを果たすなど国際的にも高い評価を得て、国内では2017年2月18日に劇場公開された。
監督:石川慶
1977年愛知県生まれ。アンジェイ・ワイダ、ロマン・ポランスキーなどを輩出した名門・ポーランド国立映画大学で演出を学び、妻夫木聡、満島ひかり主演の『愚行録』(17)で長編映画監督デビューを果たす。
イチゴジャム/Strawberry Jam2010年短編部門ノミネート
2010年/日本/32分
甘ったるくて、どろどろと歪んで沈む、
イチゴジャムのような片思い。
ある日、枝里子は男友達に手作りのジャムをおすそ分けする。ところが、指でジャムを掬って舐める男のしぐさに性的な衝動を覚え、「イチゴジャム」は枝里子の特別な感情に結びつく触媒となった。
©TRICYCLE FILM
監督:庭月野議啓
出演:大木望、前内孝文、辺見のり子、寺崎裕香、鈴木崇弘
R15+
<解説>
男友達がイチゴジャムを舐める姿に妄想を馳せる女性を描いた本作は、2010年の本映画祭短編部門だけでなく、歴史あるPFFでもノミネートされるなど、その独特の世界観が話題となり、短編ながら2014年にはDVDも発売された。2016年に製作した『仁光の受難』が、自主制作ながら、バンクーバー国際映画祭を皮切りに、釜山国際映画祭、ロッテルダム国際映画祭、ヨーテボリ国際映画祭、香港国際映画祭など世界の著名映画祭に数多く招待され、まさに飛ぶ鳥を落とす勢いの人気作となっている。日本でも、2016年のTOKYO FILMeXコンペティション部門でジャパン・プレミアされ、劇場公開が待たれている。
監督:庭月野議啓慶
北九州出身。本作がSKIPシティ国際Dシネマ映画祭2010やPFFアワード2010などに入選。4年の歳月をかけて完成させた最新作『仁光の受難』(16)では、自主制作ながらも時代劇に挑戦し、バンクーバー、釜山、ロッテルダムなどさまざまな国際映画祭に出品。国内でもTOKYO FILMeXでジャパン・プレミア上映され、年内の劇場公開を予定している。
ケンとカズ/Ken and Kazu(短編版)2011年短編部門奨励賞受賞
2011年/日本/23分
闇社会で蠢く若者のリアルな姿を
クローズアップで描く、迫真の野心作。
麻薬の運び屋・ケンとカズ。カズは母親のために足を洗うつもりでいる。そんな中、二人の横領が組織にバレて、カズは拉致されてしまう。カズが足を洗うことを快く思ってないケンのとった行動は…。
監督:小路紘史
出演:野村竜也、毎熊克也、神社勝之、林知亜季、曽我祐介、廣瀬貴士、柾賢志
<解説>
主人公ケンとカズのクローズ・アップが強い緊迫感を与える本作は、2011年の本映画祭短編部門で奨励賞を受賞したほか、ロッテルダム国際映画祭に招待されるなど、国際的にも高い評価を得た。その後93分の長編作品としてセルフ・リメイクされた『ケンとカズ』(16)は、東京国際映画祭日本映画スプラッシュ部門で作品賞を受賞したことをきっかけに、2016年7月30日に劇場公開され、多くの観客が詰めかけるスマッシュ・ヒットとなった。小路監督はこの作品で、日本映画監督協会新人賞、高崎映画祭新進監督グランプリ、日本映画プロフェッショナル大賞新人監督賞と、新人監督に与えられる賞を多数受賞する活躍を見せた。
監督:小路紘史
1986年生まれ。広島県出身。東京フィルムセンター映画・俳優専門学校卒業。10作品以上の短編映画を制作。4年連続でショートショートフィルムフェスティバル&アジアで入選を果たす。2011年に制作した本作は、SKIPシティ国際Dシネマ映画祭2011で奨励賞を受賞し、ロッテルダム国際映画祭2012をはじめ、海外からも注目される。2016年、本作のセルフリメイク『ケンとカズ』(16)で長編デビューを飾る。
トークイベント
本特集で上映される作品の監督たちは、皆それぞれの方法で監督としてのキャリアを築き、日本映画の未来を担っていくことが期待される存在に成長していきました。『ロストパラダイス・イン・トーキョー』上映後には、今回上映する長編3作品の監督が一堂に会して、これまでの道のりと今後の展望について語るトークイベントを開催。そのほかの作品の上映後にも、監督を迎えてのQ&Aを行います。